総予測2025#43欧州最大のウクライナ支援国であるドイツに加え、フランスも政情が不安定化しており、露ウ戦争に対する影響が懸念されている Photo:Kevin Dietsch/gettyimages

トランプ大統領の誕生は、欧州の政治情勢に多大な影響を与えることになる。最大の懸念は、ロシア・ウクライナ戦争への影響だ。ウクライナに一方的に停戦を迫る可能性があるからだ。特集『総予測2025』の本稿では、弱体化しつつある欧州各国の政治情勢と共に、露ウ戦争の行方を占う。(防衛大学校教授 広瀬佳一)

NATOが繰り返す
ウクライナへの「偽りの約束」

 米国でトランプ政権が2025年に再登場することは、欧州政治にとって大きな懸念材料となっている。「タリフマン(関税男)」と自称するトランプ氏は、その保護主義的姿勢により欧米間で貿易摩擦を生じさせる可能性がある。

 また、地球温暖化に懐疑的なトランプ氏は、脱炭素と経済成長の両立を目指す欧州グリーンディール政策と対立することになる。

 しかし、最も危惧されているのが、3年目に入ったロシア・ウクライナ戦争に対する影響である。トランプ氏は選挙運動中に、就任前であっても24時間以内に停戦を実現させると豪語。最大の軍事支援国であることを盾に取り、ウクライナに一方的に譲歩を迫るのではないかと懸念されている。

 他方、米国のウクライナ支援削減は、欧州の安全保障面での自立性強化を促すとの見方もある。

 実際にEU(欧州連合)は、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が、外交安全保障上級代表に前エストニア首相のカラス氏を起用し、新設の欧州委員防衛担当には元リトアニア首相のクビリウス氏を充てるなど、対ロ強硬派トリオの布陣で支援強化と軍事産業基盤拡大に乗り出す構えなのだ。

 しかし欧州の自立性強化は、レトリックとしては頼もしいが、欧州政治の現状からすると簡単ではない。

「24時間以内に停戦を実現する」と豪語するトランプ次期米大統領だが、いったいどのような方法で実現させようというのか。また、欧州政治の自立性強化はなぜ簡単ではないのか。次ページでは、複雑な欧州政治を読み解き、今後の露ウ戦争の行方について詳述する。