総予測2025#42Photo by Manami Yamada, Yoshihisa Wada

大株主は投資先の経営陣に提案を受け入れてもらえるよう、あらゆる交渉をする。だが、その具体的なプロセスは公にされにくい。そこで、特集『総予測2025』の本稿では、著名投資家の井村俊哉氏とアクティビストファンド代表の松橋理氏の2人が、大株主にまつわる2025年以降の注目テーマについて激論を交わす。前編では、大株主として取り組んでいる経営陣との具体的な交渉方法について議論してもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)

大々的にキャンペーンを張る意義は?
井村氏がアクティビストのトップに問う

――大株主として、投資先の企業にどのような課題を感じていますか。

井村 取締役会と株主の目線をアライン(一致)させることが最も大事であり、最も難しい課題だと感じています。経営陣は売上高など規模の拡大と自らの影響範囲の増大を追求しますが、株主は資本の効率的配分や企業価値の最大化を求めています。

 経営陣と株主の間にはさまざまなコンフリクトがあると思いますが、松橋さんはどう対応していますか。

井村俊哉・Kaihou代表いむら・としや/1984年生まれ。2005年に株式投資を始め、17年に通算運用益1億円、24年7月には一時的に100億円を達成するも、その後急失速し80億円ほどで個人の運用は幕を引いた。投資の傍ら、19年に投資の大衆化を掲げZeppyを起業。23年には「ニッポンの家計に貢献する」をミッションにKaihouを設立し、25年に公募投資信託への投資助言を開始する。創出したアルファを家計に循環させることでニッポンの解放を目指す。 Photo by Y.W.

松橋 PL(損益計算書)の売上高や利益の数値だけを見ている取締役が一定数いますよね。株主資本コストについてきちんと勉強してください、としか言いようがありません。

井村 一定数どころか、多数派かもしれませんね。私は役員研修を促したり、東京証券取引所や金融庁が公表している各種ガイドラインをメールで共有したりしているのですが、松橋さんはどうされていますか。

松橋 私は取締役やIR(投資家向け情報提供)担当者とのミーティングで、株主資本コストの基本について、60枚以上のスライドを使って1時間~1時間半程度のプレゼンテーションをすることにしています。

井村 素晴らしい取り組みですね。というのも、どんなに良い提案をしても、そもそも株主資本コストとは何かなどをご理解いただけていないと、話が進まないですからね。

松橋 それに「意見交換をさせてください」と依頼すると煙たがられますが、「株主資本コストについてプレゼンさせてください」と言えば話を聞いてもらいやすいです。

井村 確かに、無料で教えてもらえるのであれば、聞くだけ聞いてみるかってなりますよね。私は面談の場にIR支援の方に同席してもらい、資本市場との向き合い方をレクチャーしてもらうこともあるのですが、自分でもプレゼンできるようにしたいと思います。

――一方、松橋さんが代表を務めるナナホシマネジメントは、投資先企業に対して大々的にキャンペーンサイトを展開し、書簡も公開しています。株主資本コストのプレゼンのようなコミュニケーションをしながら、片方ではどのタイミングでキャンペーンサイトを公開するのですか。

松橋理・ナナホシマネジメント代表まつはし・さとる/1986年生まれ。2009年早稲田大学政治経済学部卒業、日本生命保険入社。18年ストラテジックキャピタル入社。22年9月ナナホシマネジメント創業、同社代表取締役。 Photo by M.Y.

松橋 同時並行です。キャンペーンサイトを公開するタイミングを投資先企業に合わせることはせず、基本的にすぐに公開します。

井村 アクティビストの中でも、水面下でエンゲージメント(投資先企業との建設的な対話)をするタイプと、大々的にキャンペーンを張るタイプに分かれると思います。

 私は表立って対立せずに、粘り強く企業と対話し続ける方が話を聞いてもらいやすくなると考えていますが、大々的にキャンペーンを張る意義はどのような点にありますか。

次ページでは、「キャンペーンサイトを公開するタイミングを投資先企業に合わせることはしない」と話す松橋氏に対し、井村氏が異論を唱える。経営陣との交渉方法について意見の分かれる2人が、具体的な対話手法とその根拠について激論を交わす。