清水は新企画のメインライターに、『太陽にほえろ!』で萩原と息の合ったところを見せた市川森一を抜擢。侃々諤々の企画会議を重ねた。番組開始までは1年以上の潤沢な時間があった。その間に、萩原主演のホームドラマ『くるくるくるり』(73~74年)や、倉本聰脚本による東芝日曜劇場『祇園花見小路』(73年)が放送され、それらが高視聴率、高評価を得るにつれて、新企画の内容も二転三転する。
また、萩原が同じく倉本脚本によるNHK大河ドラマ『勝海舟』(74年)で幕末のテロリスト、岡田以蔵を演じて鮮烈な印象を残したことが、清水と市川のイメージをドラスティックに変化させることになる。
プロデューサーを困惑させた
前代未聞のドラマの構想
当初、萩原をヤクザ役に設定していたが、この案は消えた。同時に、大藪春彦的なハードボイルド・アクション路線も消滅。さらに73年の暮れに、清水が段取りをして市川がテイタン(旧・帝国秘密探偵社)を取材したことにより、興信所を舞台にしたドラマの構想が固まる。これにより、市川の中でもストーリーが動き出した。
74年3月に完成した最終的な企画書には、次のように作品コンセプトが書かれている。
しらけた現代に反抗し、愛と夢と冒険を求めてがむしゃらに走る青年は、あやしげな探偵事務所の下働きをしている。危険な仕事や人が嫌がる仕事を押し付けられるが、勇敢に事件の渦中に飛び込んで行く。単細胞で善人の主人公は、黒幕の愛人に同情しておかしな仲になったり、倒すべき人を助けてしまったり、気が付いたらだまされていたりして、事件は思わぬ方向へ進んでしまう。どす黒い欲望と暴力、笑いと涙とお色気の破天荒ドラマ(後略)。(磯野理『東宝見聞録』アスペクト、2011年)
この時点で、後に実現する『傷だらけの天使』の概要は網羅されている。しかし、この企画書を清水に読まされた東宝のプロデューサー、磯野理は、「わかったような、わからないような設定」との感想を抱いた。と、いうことは、当時としてもかなり斬新な内容だったということだろう。