「オープニングのいろんな物を食っているのはあれだけ何回も使うんで、35ミリカメラで、三脚を使って撮りました。何やるかわかんないんでね。あれは演出というよりも、ショーケンが“こうやりたい”っていうのを回しただけだから。あれは恩地さんではなくショーケンのアイデアですよ」(木村大作)
本編は従来のテレビ映画のフォーマットと同じく16ミリフィルムで撮影されたが、オープニングのみ35ミリが使用された。木村は三脚を使ったと証言しているが、大きな35ミリカメラを担いでの手持ち撮影も同時に行われたようだ。その理由については、萩原が自著で語っている。
あのときはねえ、カメラを固定する時間がなかったの。何をやるか決めてないから、
「ここで朝メシを食う!」
おれがそう言って、パンだの牛乳だのトマトだのコンビーフだの、すぐに買える食い物を買い集めてもらった。
「とにかく食う。食ってる、食ってる、ずっと食ってるというのをやろう」(萩原健一『ショーケン』講談社、2008年)
萩原によれば、この食事シーンが続くタイトルバックのイメージは、1973(昭和48)年のイタリア映画『最後の晩餐』(マルコ・フェレーリ監督)からインスパイアされたものだという。また、新聞紙を前掛けにするのは配管工が工事現場で食事をする時にしていた仕草を真似たとも。常に研究熱心な彼らしい逸話だ。
「オープニングをワンカットで撮るというのは恩地さんのアイデアですね。なぜそう決めたかというと、『木村大作は手持ちカメラが一番上手い』と言うんですよ。だから彼だったら、ショーケンの表情や動きをちゃんと追いかけることができるとね」(工藤英博)
カメラに牛乳をぶちまける
萩原健一の奇抜なアドリブ
現場では木村が奮闘しワンカットで撮影が行われたが、実際のオンエアでは、その途中で数回、萩原の写ったモノクロのスチール写真が挟み込まれる構成となった。このスチールを撮影したのは、写真家の加納典明。
「恩地さんは用意周到な人なので、もしワンカットで行けなかった場合に備えて、和田誠さんのイラストを挿入する用意をしていたんです。それが加納典明さんが撮った写真に変わったのは、局側のアレンジですね」(工藤英博)