建機 陥落危機 メーカー&商社“背水の陣”#9Photo by Shintaro Iguchi

工事現場で欠かせない建設用クレーン市場においても、近年は中国メーカーの台頭が目立っている。建設用クレーン世界大手、タダノは2024年12月期に売上高が過去最高だったが、欧州事業は苦戦し、方向転換を迫られている。特集『建機 陥落危機 メーカー&商社“背水の陣”』の#9では、同社の氏家俊明社長に大胆な「選択と集中」の構想を語ってもらった。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)

唯一無二のクレーンメーカー目指し
ラインアップを拡充

――クレーンと、油圧ショベルなどの一般建機ではメーカーが異なります。業界の特徴を聞かせてください。

 公道を走るため、道路交通法の規制があることが大きな特徴です。各国で規制が異なるため、トレーラーで運べさえすればいい油圧ショベルなどと事情が違います。一口にクレーンと言っても種類も多い。主力商品のラフテレーンクレーン(運転席が一つで小回りが利くクレーン)が公道を走れるのは日本だけで、海外で公道を走る場合は別機種になります。

 ヨーロッパは陸続きで国をまたぎ、アウトバーンもあるので道路交通法が発達している。そのためかクレーン業界のリーディングカンパニーもヨーロッパに集まっていて、世界トップシェアを占めるのはドイツのリープヘルです。

 建機の中で圧倒的に台数が多いのが油圧ショベル(2023年の国内出荷台数は約2万5000台)で、それに対してラフテレーンクレーンは少ない(同約1300台)。グローバルでも傾向は同じです。

――一般建機や鉱山機械ではアフターマーケットの利益率が高いですが、クレーンではいかがですか。

 部品・サービスの売上比率は1割にすぎません。地面を掘削する機械と異なり、消耗品はワイヤと滑車の部分だけです。クレーン本体の寿命も30年と、油圧ショベルの3倍ほどです。宿命的に部品の売り上げは少ないのです。

――一般建機と同様に中国メーカーの存在感が増していると聞きます。

 三一重工(SANY)、徐工集団(XCMG)、中連重科(ズームライオン)。中国勢の存在感が増している東南アジア市場では、タダノの新車シェアが落ちているのが実態です。でもわれわれは東南アジアを主戦場と位置付けていません。売上高約3000億円のうち日本が約1000億円、米国が約1000億円、それ以外が1000億円です。アジアには依存していません。

――18年に中国の合弁会社から撤退し、22年にはインドでの製造もやめています。現地メーカーが強い中国はまだしも、インドの拠点を閉じるのは製造業全体を見渡しても思い切った判断のように思えます。

 油圧ショベルは日系メーカーが中国でシェアのマジョリティーを取れましたが、クレーンの場合は道路交通(他)法の壁がありました。公道を走るジャンルのクレーンなどの建機で中国はメジャーを外資には与えなかった。これは無理だと判断して早く撤退しました。

 新型コロナウイルス感染拡大の前は中国市場のクレーン需要は5万5000台に上り、中国以外のグローバルの需要の合計が1万台でした。それが長引く不動産不況で今の中国需要は1万1000台にまで落ち込んだ。4万台が余っているわけですね。需要はいずれ3万台くらいまで戻るとは思いますが、それでも市場は飽和しています。

 インドは今、インフラ投資が伸びていてむしろ参入する企業が多いかもしれませんが、いかんせん市場価格が低過ぎました。クレーンは現場で事故を起こせば一般の人を巻き込む恐れがあります。安全面との兼ね合いで現在のインドでは利益を出す価格では造れません。市場価格が上がらない限りは責任ある事業の運営は難しいです。じゃあインドではどこのクレーンが売れているかというと中国メーカーです。

――米マニテックスと長野工業を買収し、IHI子会社のクレーン事業を譲渡されます。その意図はどこにありますか。

 いずれもこれまでタダノが持っていなかった分野に強みがあり、競合していないのでラインアップの拡充につながります。マニテックスは車載型クレーンで米国トップシェアです。自走式の高所作業車で国内シェアトップの長野工業も買収した。

 さらにIHI運搬機械の固定式クレーンなど運搬事業の譲渡を受けます。固定式クレーンは高層ビル建設で司令塔のような役割を担う機械で、今後、通信技術の発達で機械同士の連携がさらに進むと見込まれる中、持っていた方がいいと判断しました。

 次ページでは、主戦場と位置付ける米国の事業環境と、クレーンと密接に関わる洋上風力発電の課題について、氏家社長が激白する。