逆に、代償動作で過剰な負荷がほかの関節や筋肉にかかると、炎症や損傷を起こし、やはり硬くなっていきます。つまり、代償動作は拘縮(編集部注/関節が動きにくくなった状態)や異常なトラッキングの引き金になるのです。

 イメージしやすいよう、スクワットの動きで説明しましょう。スクワットで腰を落とす際、股関節と足関節が正常に可動すれば、腰をしっかり沈めることができます。ところが股関節と足関節がうまく動かない、あるいはそこに痛みがあると、深くしゃがめません。そして体は何とか腰を沈めようとして、無意識に膝を内側に倒します。これが代償動作です。

 膝が動きすぎてしまい、正常なトラッキングから逸脱しているため、膝の関節にかかる負担が増大し、ケガをするリスクも上がります。

 殿筋群を使わない生活を送っていると、代わりに過剰に働いてしまうのは、隣接する腰周りの筋肉です。運動に慣れていない人が殿筋群のトレーニングを始めると、必ずといっていいほど「腰が痛い」と言います。ふだんの生活ですっかりお尻を使わなくなっている証拠だといえます。

エスカレーターよりも階段を
横断歩道ではなく歩道橋を使う

 日常生活でも殿筋群を鍛えるために、まずは「階段生活」に切り替えてみましょう。駅や商業施設などで使わないようにする、横断歩道ではなく歩道橋を使うなど、できることからでOKです。

 なお、「私は毎日2時間ウォーキングをしています」という中高年の方もいますが、平地を歩いているだけでは下半身に与える負荷は低く、残念ながら殿筋群の筋トレという観点では物足りません。

 しかも、歩行は同じ動作の繰り返しです。長時間のウォーキングでは使わない筋肉と使いすぎの筋肉の差が開き、かえって股関節を痛める原因になりかねないのです。

 体を動かす習慣があることは素晴らしいことです。でも、「歩いた翌日は腰に違和感がある」という方は、ぜひ殿筋群にも着目しましょう。ウォーキングの途中でコースに歩道橋や長い階段のある神社などを組み込んでみるといいでしょう。

 私たちのようにスポーツの現場を見ているトレーナーにとって、日常的に起こる選手の痛みやケガに対処することも仕事の1つです。

 股関節の痛みというのは、高齢者に起きるだけでなく、アスリートにも非常に多いものです。しかも、股関節は体の深部にあるので、目で見たり、触ったりして状態を確認することが難しく、非常にやっかいです。