運動に慣れていない人がお尻のトレーニングを始めると、必ずといっていいほど「腰が痛い」と言う。これは「ふだんの生活ですっかりお尻を使わなくなっている証拠」と専門家は指摘する。そこで、下半身に負荷をかけるために効果的なのが、階段の上り下りだ。今日からできる「階段生活」のススメを解説する。本稿は、中野ジェームズ修一『すごい股関節 柔らかさ・なめらかさ・動かしやすさをつくる』(日経BP)の一部を抜粋・編集したものです。
股関節の違和感や痛み
原因は「お尻」にあり
階段を使うと健康によいとよく聞きますよね。それでは、階段を上り下りしているとき、股関節にはどれぐらいの負荷がかかっているでしょうか?
答えは体重の6~7倍です。階段の上り下りは、片方の脚だけで体を支える瞬間の繰り返しですが、1歩ずつ上り下りするたびにこれだけの重量が股関節にかかります。
ちなみに、歩行時は体重の2~3倍、走るときは3~6倍で、ジャンプなら2~4倍の負荷がかかります。階段の上り下りはなかなか負荷の高い運動だとわかります。
そのため、トラッキング(編集部注/関節の動き方や動きの軌跡)が正常でないと、階段の上り下りで股関節に違和感や痛みが生じやすいのです。このような症状があるならば、原因は股関節を支えるお尻の筋肉にあるのかもしれません(図1)。
股関節は殿筋群に支えられている関節です。大殿筋は股関節の屈曲・伸展の動作で使われ、階段を上り下りするときや走るときは、片脚になっても倒れないよう骨盤を支えます。そして、骨盤が左右にぶれないように支えているのが中殿筋です。これらの殿筋群の働きによって股関節にかかる負担も軽減されます。
ところが、殿筋群は運動不足によって落ちやすいだけでなく、加齢によって硬くなりやすいという特徴があります。筋肉は、維持するだけでも多くのエネルギーを要する、燃費の悪い組織です。座りっぱなしの生活や下半身を使わない生活を送っていると、脳は下半身の筋肉を「不要」と判断し、殿筋群を含めた下肢の筋肉をそぎ落としていってしまいます。
お尻を使わない生活が
重大なトラブルを招く
その結果、若い人でも運動不足の生活を送っていると、老人のような薄く垂れ下がった「扁平尻」になってしまうのです。
ある筋肉を使わない生活を続けていると、体はその筋肉を使わない動作に適応します。これは、「代償動作」の一種だといえます。
代償動作とは、障害や痛みがある部位をカバーしようと、本来、使わなくてもよいほかの関節や筋肉を使ってしまう動作のことです。これがクセになると、使われるはずだった関節や筋肉が、使われないことでどんどん弱くなり、柔軟性を失っていきます。