股関節に違和感や痛みを訴える選手がいたとき、私たちは最初に「いつから痛むのか」と「どこが痛いのか」という質問をします。痛みに対して診断したり治療したりするのは医師の役割ですが、その程度によっては、私たちトレーナーにもできることがあります。
まずは痛みの発生時期ですが、数日内に起きた痛みであれば、「急性炎症」であると考えます。この場合、医師の診察を受け、固定したり投薬治療を行ったりしながら、安静に過ごします。患部にメカニカル(機械的)な刺激を加える運動療法を行ってはなりません。
やっかいな関連痛は
脳の過去の学習のしわざ
一方で、数日から数カ月にわたって痛みが軽くなったり強くなったりを繰り返しているような場合は、運動療法で改善できる可能性が大きくなります。というのも、すでに炎症は沈静化しているはずで、何らかの原因で股関節に機能障害が起きていると考えられるからです。
痛みの場所については、私たちトレーナーは必ず、「具体的にどこが痛いですか?」という聞き方をします。すると、「ここが痛いです」と指で示せる人と、「大体、この辺です」と、手のひらの大きさくらいの範囲を示す人に分かれます。
指で痛い場所を示すことができる場合、その箇所に何らかの問題が起きている可能性が高くなります。一方、なんとなくこの辺が痛いという場合は、「関連痛」であるケースも非常に多いと考えられます。
関連痛とは、痛みを感じると訴える部位そのものには実は問題がなく、障害や損傷の起きている部位が少し離れたところにあるというものです。つまり、一見、関係のないところになぜか痛みが生じているわけです。
例えば、痛みの発生源は内臓や筋肉、関節など、深部にある組織なのに、皮膚のあたりに痛みがあると勘違いしてしまうことがあります。どうしてこのようなことが起きるのでしょうか。これを説明するメカニズムの1つとして「収束投射説」があります。
皮膚や筋肉から感知した深部感覚や、痛覚、温度覚などの情報は、末梢神経を介して「脊髄後角」によって脳に伝えられます。脳は過去の学習から、関節包などから来た信号と皮膚から来た信号を混同してしまい、関節の異常を皮膚の痛みとして認識してしまうことがあるのです。