![中国発の生成AIディープシークが米国に進出しても、オープンAIに絶対かなわない「軍事向けAI」の1兆円市場](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/9/4/650/img_94e1fa66fedd0825e3b67d9e5c8b6b26275804.jpg)
中国発のベンチャー企業ディープシークが低コストかつ高性能の生成型人工知能(AI)を開発したと発表し、世界最先端のAI大国を自任してきた米国に大きな衝撃を与えている。ディープシークは、「弊社のAIのコストは、米競合のオープンAIの開発したチャットGPTの10分の1以下だが、性能はチャットGPTに匹敵する」と主張している。1月27日にはディープシークのAIが出現したことで、AIの性能を左右する半導体を製造する米エヌビディアの株価が17%も暴落。5890億ドル(約88兆円)もの時価総額が1日で吹き飛んだ。この日以来、ディープシークを巡るさまざまな報道が飛び交っているが、ディープシークのコストや能力がいくら優れていてもオープンAIに近づくことができない分野がある。特集『ディープシークの衝撃』の#1では、米国のサンクチュアリともいえる軍事向けのAI市場が急成長している実態をデータに基づいて明らかにする。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)
ソフトバンク、マイクロソフトも資金提供
オープンAIがひそかに進める軍事シフトとは?
米国にとって中国のAIベンチャー、ディープシークの登場は、1957年に旧ソ連が世界初の人工衛星スプートニクを軌道に乗せ、宇宙開発競争の主導権を握った出来事になぞらえ、広く「スプートニクモーメント」とも呼ばれる。この比喩には深い意味が込められている。なぜなら、人工衛星はその後の発展でまず軍事目的で利用されたからだ。スプートニクには明らかに軍事的かつ国家安全保障を左右する重要な意味合いがあった。
AIもまた、多分に軍事的な性格を帯びるものだ。米「フォーブス」誌によれば、AIを導入した徘徊型弾薬を含む無人飛行機(ドローン)に「川沿いの経路に車両があるかどうか確認せよ」「敵陣まで低空で飛行し、南側から進入せよ」といった複雑な命令を実行させることにより、自国の兵士たちの斥候におけるリスクを軽減し、敵に対する攻撃において優位に立てる可能性があるという。
ロシアのウクライナ侵攻や、中東パレスチナのガザ地区での戦争に見られるように、ドローンは地上戦の在り方を一変させている。そのドローンにAIを搭載することで、より効果的な偵察や攻撃を目指すことは、各国の軍にとって不可避の方向性であろう。また、ドローンのみならず、あらゆる兵器や軍用装備がAIで強化される可能性もある。ディープシークが手本にして、ライバルとなることを目指す米オープンAIも実は、急速に軍事分野参入を進めていることは、あまり知られていない。また、オープンAI以外の米AIスタートアップも次々と米軍との契約を結んでいる。
次ページでは、軍事向けのAI市場が急成長している実態をデータに基づいて明らかにする。ソフトバンク、米マイクロソフトなどが資金提供するオープンAIがひそかに進める軍事シフトとは。