ディープシークの衝撃#4中国ディープシークが喚起したオープンAIのアルトマン氏とxAIのマスク氏の争い Photo:VCG,Justin Sullivan,Bloomberg/gettyimages

低コスト・省エネルギーかつ高性能の生成AI(人工知能)であるディープシークや、電気自動車(EV)大手BYDのAI自動運転システム「天神之眼(神の目)」など、中国発の最先端テクノロジーに関するニュースが、米IT企業の株価やライバル間の競争の構図に小さくないインパクトを与える例が増えている。とりわけ注目されるのがxAIのイーロン・マスク氏がオープンAIのサム・アルトマン氏に仕掛けた場外戦だ。特集『ディープシークの衝撃』の#4では、中国からの衝撃が、どのように米国内のAI開発競争を変え、さらに激化させているかを読み解く。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

大きかったディープシークの衝撃
「米国がAI開発の中心」は崩壊?

 広東省深圳市のベンチャー企業ディープシークが低コスト・省エネルギーかつ高性能の生成AI(人工知能)を開発したと発表したことで、世界中の企業間で時価総額第1位のAI向けグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)メーカーである米エヌビディアの株価が、1月27日に前日終値から18%も下げた。

 一方、米EV大手テスラの株価は2月11日に、中国競合であるBYD(比亜迪汽車)がAI自動運転システム「天神之眼(神の目)」を今後、廉価モデルも含めた全車種に搭載する方針を発表したことで、およそ6%と大幅に下落した。

 従来の米シリコンバレーにおける支配的な見方では、グローバルなAI開発レースは主に米国内のAIスタートアップ間の競争として見られていた。「米国こそが最先端」であり、他国はあまり眼中になかったといえよう。しかしディープシークの出現や天神之眼の普及の見込みが、そうした市場の固定観念を打ち破ったのである。

 事実、ディープシークショックで新たなフェーズに入った米国内のAI開発競争を巡っては、頻繁に「中国」「ディープシーク」という言葉が評論に登場するようになっている。トランプ米大統領さえもディープシークに言及し、「安価な方法があるのは良いことだ」と高く評価している。

 次ページでは、米AI開発競争において、中国製AIがどのような形で米国内の競争を刺激しているのかを探る。