キャリーケースを引くビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

上場企業の取締役が海外視察に家族を同伴し、総額1700万円に上る費用を会社に負担させている――。学生向け賃貸住宅の管理・運営などを手掛け、急成長を遂げているジェイ・エス・ビーで、コーポレートガバナンスを揺るがす「経費不正処理」の問題が発覚した。巧妙に行われた不正の実態とは。なぜ不正が常習化していたのか。詳しく見ていこう。(公認会計士 白井敬祐)

役員が家族旅行の費用を計上……総額1700万円!?
急成長中に上場企業で起こった「経費不正」の全貌

 株式会社は誰のものでしょうか。

 経営陣のもの? 創業一族のもの? いいえ、上場している以上は株主のものです。

 これはコーポレートガバナンスの根幹を成す考え方ですが、今回取り上げる事件は、まさにこの株主価値が経営陣の私的利益によって毀損(きそん)された事例です。

 株式会社ジェイ・エス・ビー(以下、JSB)は、学生向け賃貸住宅の企画・開発から管理・運営を手掛ける東証プライム上場企業。業績が好調な中で、さらなる業績向上のため役員たちによる海外視察や研修旅行が頻繁に行われていました。これは業績を向上させるために必要な業務――のはずでした。

 ところが2024年、その陰で巧妙な不正経費処理が行われていた実態が発覚しました。専務取締役が家族旅行の費用を会社に負担させていたことや、多額の簿外資産の存在が明らかになり、同社は信用を大きく揺るがす事態に直面することになったのです。

 事の発端は、当時の専務取締役が海外視察・研修に家族を同伴し、その費用を会社に負担させているという情報が常勤監査役の耳に入ったことです。これにより、特別調査委員会が設置され、徹底的な調査が行われることとなりました。

 特別調査委員会の報告書によると、計18件、総額約1700万円もの不適切な支出や、3200万円を超える簿外資産の実態が明らかになり、JSBのガバナンス体制の脆弱性が浮き彫りになりました。

 何がきっかけでこの不正の連鎖が発覚し、JSBはどのように信頼回復に向けて動いているのでしょうか。事件の全貌を時系列で追いかけ、不正の内容とその教訓に迫っていきます。