「人的資本」と「人的資源」は似た用語ですが、その捉え方に大きな違いがあります。人的資源が人材をコストと見なすのに対し、人的資本では成長させるべき資本と捉えます。例えば、教育やスキル開発への投資は、人材の価値向上を通じて企業全体の競争力を高めるためのものと考えます。
日本でも、2023年3月期決算以降、上場企業に人的資本の情報開示が義務付けられました。従業員のスキルやキャリア開発、働きがい向上への取り組みは、投資家からも注目されており、人的資本経営は従来にも増して企業が取り組むべきものとなっています。
多様化するビジネス環境で
見えてきた「物的資本依存」の限界
従来、企業の成長には、工場の機械や生産ライン、物流施設など「目に見える資産」への投資が重要と考えられてきました。特に大量生産の時代には、大規模な設備を整えることが、生産効率を上げ、利益を増やす鍵とされていました。生産量が増えるほど、固定費用を分散でき、コスト効率が高まるからです。
また、当時の企業では、生産や物流、販売など、顧客に直接商品を届ける活動が重視され、人材や管理業務は補助的な役割と見られていました。
企業の成長において、物的資本への投資が重視された背景には、「限界費用」と「費用逓減の法則」という経済の基本的な考え方があります。
限界費用とは、製品を追加で1つ生産する際に必要な追加コストのこと。例えば、自動車工場の場合、既存のラインを使って1台の車を追加で作るためのコストが限界費用にあたります。設備投資によって生産効率を向上させると、この限界費用を大幅に削減することが可能です。