製品のカスタマイズや迅速な対応が求められる現代において、製品・サービスのソフトとハードを分離する動きは、対応の柔軟性を高める一助となっています。例えばiPhoneでは、ソフトウェアアップデートによって新機能を追加して顧客ニーズに応えることで、ハードウェアの寿命を延ばすことに成功しています。また楽天モバイルは、基地局への物理的な設備投資を最小限に抑えながら、ソフトウェアによる制御を中心にすることで、迅速な対応を可能にしています。
このようなソフトウェアの適応力は、変化の激しい市場環境における競争力を支えています。物的資本への過度な依存は、現代の市場においては限界を迎えつつあり、今後の企業成長には、柔軟性を重視した経営モデルへの転換が求められているのです。
DX時代のバリューチェーンでは
人的資本の価値がより高まっている
経営学者のマイケル・ポーターが提唱する「バリューチェーン理論」は、企業がどのように価値を生み出すかを体系的に説明するものです。この理論では、企業の活動を「主活動」と「支援活動」の2つに分類しています。主活動とは、製品やサービスを直接顧客に届ける活動(例:生産、物流、販売)を指し、支援活動とは、それらの活動を支える基盤となる活動(例:人的資源管理、技術開発)を指します。
従来の経営においては、主活動が企業活動の中心と見られ、支援活動は「コスト」と見なされることが多く、軽視される傾向がありました。しかし、DXの進展により、この構図は大きく変わりました。例えば、AIやビッグデータを活用するデータサイエンティストなどのデジタル人材は、企業の収益に直接影響を与える存在として、その価値が高まっています。
人的資本は、いまや企業の収益に大きく貢献する存在です。デジタル人材が持つ専門知識やスキルは企業の競争力を飛躍的に高めていますし、マーケティング人材は顧客とのリレーションを深めることで、パーソナライズされた提案を可能にし、企業の収益に直結する価値を生み出しています。