一方、費用逓減の法則とは、生産量が増えるにつれて1単位あたりの平均費用が低下する現象を指します。例えば、工場の初期費用が1億円だとして、1000台を生産すれば1台あたりの固定費は10万円になりますが、1万台を生産すれば1台あたりの固定費は1万円まで下がります。このように、スケールメリットを生かして平均費用を引き下げるのが、費用逓減の法則です。
費用逓減が成立している状態では、限界費用が平均費用より低い状況が生まれます。例えば、限界費用が平均費用を下回ると、新たな生産によって全体の平均費用をさらに引き下げる効果が生じます。このため、大量生産が可能な企業ほど、競争力を高めやすくなります。
自動車メーカーは、巨大な工場での生産がスケールメリットを活用する典型例です。トヨタの「カンバン方式」は、必要な時に必要な分だけ部品を調達し、在庫を最小限に抑えることで高効率の生産を実現。コストを削減しながら品質の高い製品を市場へ供給しています。しかし、需要が急増した場合には、追加で設備投資が必要になることがあります。
ソフトウェア業界で始まった
「新しい資本」の活用
一方、ソフトウェア業界では、デジタル製品のコピーにかかる限界費用がほぼゼロに近いのが特徴。パッケージソフトウェアが主流の頃でもそうでしたが、さらに、クラウドでの配信がソフトウェア流通の主流となった今では、需要が増えても追加投資は最小限で済み、費用逓減の効果がより顕著に現れます。
かつて、企業の成長に不可欠とされていた物的資本への投資は、現代ではその限界が見え始めています。多品種少量生産のトレンドが進む中で、大量生産を前提とした設備投資モデルでは、顧客の多様なニーズに迅速に応えることが難しくなっているからです。また、需要変動への対応も課題です。大量生産設備は、需要が低迷すると稼働率が低下し、固定費が収益を圧迫するリスクがあります。