そこで1年後の大学院入試を目指し、働きながら勉強を始めました。平日は出社前や帰宅後、出張先や移動中など1日2~3時間程度、休日はほぼ丸1日、勉強しました。受験からは7年以上時間がたっていたので、数学や生物、化学は大学受験のレベルからやり直し、大学1〜2年の教養のレベルまで学習しました。
英語はメモリースポーツの大会や海外の出版社へのプレゼンなどでも使用していたので、入試で頻出の基礎レベル英単語を覚えなおしたり、入学後も見据えて脳科学や認知科学などでよく使われる英単語を覚えたりしていました。大学院で専門にする分野は、さらに深い内容を学習する必要があるので、専門書8冊ほど理解するだけでなく、記憶術を使って徹底的に暗記しました。
年にもよりますが受験倍率は3〜5倍ほどでした。自分は30代前半の社会人なので、現役の東大生と同じくらいの点数だと面接で落とされる可能性が十分にあると思い、少なくても学力で絶対負けないと自信が持てるようになるまで徹底的に勉強をしました。
また大学院の研究室をいくつか訪問して、教授や研究員の方たちと話をしながら、自分のやりたいことが学べる研究室を探しました。外部の人にも開かれているゼミや勉強会などに参加させてもらい、何度も教授や研究員の方、大学院生などと研究の話をしたりして解像度を高め、自分の研究計画書の内容を詰めていきました。
大学院の入試は8月なので、その年の4月に会社を退職し、入試までの4カ月間は1日約12時間勉強し、念願かなって東大大学院に合格できました。
いま振り返ると、この経験は前述した記憶の上書きに近いのかもしれません。私は大学受験の記憶を消し去りたいと思っていたわけではありませんが、結果的に東大大学院に入り、自分の得意分野で起業して、大学院での勉強や研究を生かして楽しく仕事ができています。いまの自分があるのは、あの大学受験の苦い経験があったおかげだともいえます。
多くの人が、大なり小なり失敗や挫折、苦しみや悲しい経験をしていると思います。忘れたい記憶をいつまでも引きずるのは不幸なことです。完全に消去するのは難しいかもしれませんが、薄めることは可能です。ぜひ、ご紹介した方法を試していただければ幸いです。