背伸びして知ったかぶりをしても恥をかくだけ。だったら最初から正直に「お酒に詳しくないので教えてください」とやったほうが、有意義な時間がすごせるだろう。一流のバーテンダーが客に恥をかかせることは絶対にないので、安心して下手に出てほしい。

 それを踏まえて、心得その3。バーテンダーとのミュニケーションを楽しもう

 バーテンダーの側からすれば、初来店の客については好みの傾向がわからないから困ってしまう。その日の気分や興味の方向性から、最高の1本を一緒にすり合わせていくスタンスが大切だ。

 なお、「いまの私の○○な気分にぴったりのカクテルをつくって!」といった独りよがりなやり口は、よほど気心が知れた常連だけに許されたノリである。たいていスベるのでご注意を。

キレイなカクテルが出てきた!
写真におさめるその前に

 上記3つの心得の他にも、覚えておきたい暗黙のルールがいくつかある。すべからず集として一気に列挙していこう。

 まず、どんなに楽しい気分になっても、無闇に隣りの客に話しかけてはいけない(心得その4)。そうした客同士の輪の広がりを推奨している店でないなら、これは暗黙のルールである。1人でしっぽり飲みたい客もいるのだ。

 また、色鮮やかなカクテルやロックグラスは絵になるのでつい写真に収めたくなるが、勝手にシャッターを切るのはマナー違反(心得その5)。初めての店ではとくに、撮影する前に「撮ってもいいですか」と一声かけよう。もちろん、フラッシュを焚くのは厳禁だ。

「バーテン」はバーテンダー
の略語ではありません

  さらに、バックバーだけでなくカウンター上に酒が並んでいることもあるが、ボトルに勝手に触れてはいけない(心得その6)。ボトルは物によっては高価な資産であり、丁重に取り扱わなければならないもの。手の脂がつくのも見栄えが悪い。どうしても気になる場合は、やはり「ボトル、見せてもらってもいいですか」と一声かけるのがマナーだ。

 最後に蛇足ながら付け加えると、バーテンダーのことを「バーテン」と略して口にする人は多いが、これも避けたほうが無難である。というのも、バーテンという言葉は実は差別用語(心得その7)だとする説があるからだ。

 意外に思われるかもしれないが、「バーテン」とはバーテンダーの略ではない。バーテンダーという職業が社会的地位を得る以前、その日暮らしの自由人がこの仕事に就くケースも多かった時代に、フーテンとかけて生まれた“蔑称”なのだ。意に介さないバーテンダーも多いが、少なくともこちらは先回りして気を使い、「バーテンダーさん」とお呼びするのがワンランク上の客の在り方だろう。

 細々と講釈をたれてしまったが、以上のことを胸に留めながら、思い思いにこの世界を深掘りしてほしい。気の合うバーテンダーと出会えれば、さらなる酒の楽しみが広がること請け合いだ。