
全国から凄腕のバリスタが集い、コーヒーの提供技術を競う「ジャパン バリスタ チャンピオンシップ(JBC)」(日本スペシャルティコーヒー協会主催)。2024年の同大会で、優勝・準優勝を独占したスペシャルティコーヒー専門店がある。東京都渋谷区の猿田彦珈琲だ。(取材・文/大沢玲子)

同社の創業は11年。代表取締役・大塚朝之氏は10代から続けてきた俳優の道を断念し、コーヒー豆店でのアルバイト経験を経て、起業した異色のキャリアを持つ。
「コーヒーについて学びを深める中、フレンドリーな雰囲気で、当時はまだ珍しかった本格的なスペシャルティコーヒーを提供する店をつくりたいと構想したのが起点となりました」(大塚氏)。
経営の経験も開業資金もゼロ。メインバンクの昭和信用金庫のサポートを受け、「たった一杯で幸せになるコーヒー屋」をコンセプトに東京・恵比寿に店を開業。高品質なコーヒーを手軽にテイクアウトできる業態と、地域密着型の接客が人気を呼び、売り上げも順調に伸長していく。
日本コカ・コーラとの協業で
知名度アップ

13年にはコーヒー豆の自家焙煎を開始。その翌年、新たな転機が訪れる。同社監修による「ジョージア ヨーロピアン」シリーズ(現「ジョージア香る」シリーズ。日本コカ・コーラ)の誕生だ。監修の依頼を受けた際は、「缶コーヒーとコラボすることへの世間の評価や、大企業との協業への不安もありました」と大塚氏。
だが、缶で手軽に飲めるおいしいコーヒーが広まることで、自身が情熱を懸けるコーヒー産業を盛り上げられればと決意。このチャレンジは同社の名が全国に広がる契機ともなった。

現店舗数は25店舗。今後も積極的に出店を加速していく構想だ。大手カフェチェーンから個店まで、コーヒーを提供する店が乱立する中、同社のコーヒー、店舗の特徴はどこにあり、なぜ支持を集めるのか。ポイントは大きく三つある。
一つ目が、チェーン店ながらスペシャルティコーヒー専門店として自社で生豆の調達から焙煎、抽出まで一貫して手がけ、質の高いコーヒーを提供していること。「おいしさとサステナブルの二つの要素を中心に、高品質のコーヒー生豆原料をそろえ、チーム力で焙煎と抽出の技術の向上に注力しています」と大塚氏。
昨今のコーヒー豆価格の高騰も、数カ国とダイレクトにトレードすることで、影響を軽減できているという。