
計測・制御機器大手の横河電機が子会社、横河デジタルを設立してDX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)の領域でコンサルティング事業を展開している。ハードウエアの企業がソフトの領域に進出した事情をひもとくと、AIと製造業をつなぐ結節点が見えてきた。特集『絶頂か崩壊か 半導体AIバブル』の#9では、製造業DXの課題と、AIでそれを乗り越えるヒントを明らかにする。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)
製造業の知見を生かしたAI
クローズドなデータ学習に特化
横河電機は計測・制御機器の国内最大手で、海外売上比率が7割を超えており、グローバルでも存在感は大きい。主な顧客は、化学、石油など、化学反応や温度変化を伴いながら製品を作り出す「プロセス製造業」だ。
横河電機の本業はハードウエアの製造だが、2022年7月に主に製造業に対してDX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)のコンサルティングを行う子会社の横河デジタルを設立した。プラントの操業や制御のノウハウを活かしたDX支援が、デジタル導入に二の足を踏む多くの国内製造業の需要にマッチすると見込んだのだ。
16年に政府がIoT(モノのインターネット)やビッグデータが社会課題を解決するとするSociety 5.0を提唱し、22年以降は生成AIが本格的に普及した。こうした流れの中で、製造業でもDXが喫緊の課題となって久しいが、なかなか前に進んでいない。
その理由として、二つの障壁が立ちはだかっている。一つ目は、工程にかかる時間や製造に最適な温度など、製造現場で得られるデータが、企業にとって「ノウハウの固まり」であり、外部に出せない情報であること。二つ目は、DXを導入した場合の費用対効果が見積もりにくいことだ。
企業のDX支援は、コンサルティングファームやシステムインテグレーター(SIer)がビジネスの「主戦場」としているが、これらの業種は製造現場に精通しているとは限らない。
横河電機は創業以来110年にわたって工業用計測機器を製造し、同社の製品はプロセス製造業で広く使用されてきた。つまり、センサーから得られる温度や設備稼働率、在庫などのデータをどう活用すれば生産性を最適化できるのかーーといったノウハウを蓄積してきたのだ。
こうしたノウハウを生かして、製造設備管理のスペシャリストが開発したAIが、化学プラントを自律的に制御できるAIだ。運転員が手動で制御していたバルブ操作量を、AI自らが判断し入力することができる。
このAIは生成AIと違ってインターネットには接続されていない。製造現場で得られるクローズドなデータのみを学習対象にしている。そのため、情報漏えいのリスクは低く、ユーザーのデータさえあれば稼働できるため容量は軽く、生成AIのように米エヌビディアの画像処理半導体(GPU)に莫大な投資をする必要もない。
クローズドなデータを効率的に学習することに特化しているのだ。
製造現場を熟知した横河電機が開発したAIとはどのようなものなのか。次ページでは、製造業のスペシャリストが挑む「AIで稼ぐ方法」に迫る。