
生成AI(人工知能)のけん引で成長してきた半導体市場が転機を迎えている。トランプ米大統領による半導体関税の導入が現実になれば、半導体業界を支えてきた国際分業によるサプライチェーンを混乱させることになりそうだ。米巨大IT(ビッグテック)が巨額資金をつぎ込むAI投資の“バブル”も崩壊しかねない。特集『絶頂か崩壊か 半導体AIバブル』の#14で、そのリスクに迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
“製造業の米国回帰”を敏感察知
TSMCとエヌビディアが米国シフト
トランプ米政権が打ち出した関税政策によって、半導体業界は揺れている。いまのところ半導体、半導体製造装置、スマートフォンなどについては「相互関税」の対象から除外する一方で、別枠での追加関税が課される方向にある。
トランプ氏の目的は明白だ。米国内に半導体工場を誘致・拡充し、サプライチェーンを米国中心に再構築することにある。
これを敏感に察知した世界一の半導体受託製造業者(ファウンドリー)の台湾積体電路製造(TSMC)は3月3日、米アリゾナ州で建設中の製造拠点への追加投資として1000億ドル(約14.5兆円)を拠出する計画を発表した。
これにより、TSMCの米国での工場投資計画は総額1650億ドル(約24兆円)に上り、米国史上最大の対外直接投資となる。トランプ政権発足100日目に当たる4月30日には、アリゾナ州で3カ所目の「前工程」工場の建設を開始している。
また、生成AI(人工知能)ブームに乗り、半導体業界世界一に躍り出た米エヌビディアも動いた。4月14日、台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)などと共同で、米国内で最新のAI半導体を組み込んだAIサーバーの製造工場を建設する計画を明らかにした。
こうして、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、アルファベット傘下のグーグルなど米ビッグテックが巨額投資を行うAIデータセンターに必要なサプライチェーンを根こそぎ移転しようとするトランプ氏の野心が浮かび上がった(詳細は本特集の#11『トランプ半導体関税の真の標的は「台湾→米国へのサプライチェーン強制移転」、日本企業も震撼!』参照)。
すでにエヌビディアは、TSMCのアリゾナ工場で次世代AIチップ「ブラックウェル」の生産を開始したという。競合の米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)も、同工場での生産開始計画を明らかにしたところだ。
半導体生産の米国シフトは着々と進んでいるが、これが加速することになれば、国際分業で支えられてきた半導体のサプライチェーンの混乱は避けられない。