
AI(人工知能)ブームで急成長した半導体業界は、「AI以外」の半導体企業の苦境が深刻化している。特に厳しい状況にあるのが、ルネサスエレクトロニクスとロームだ。主力の産業機器やEV(電気自動車)向けの半導体需要は、トランプ関税の影響でさらに冷え込みそうだ。特集『絶頂か崩壊か 半導体AIバブル』の#13では、AIの恩恵を受けられない半導体メーカーの苦境に迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
AI時代を謳歌するTSMCの裏で
苦境に陥るルネサスとローム
世界の半導体市場は過去最高のペースで拡大している。米国半導体工業会が4月4日に発表した2月の世界における半導体販売高も前年同月比で17.1%増となり、2月として過去最高を記録。前年同月比の増加は16カ月連続で、力強い成長は続いている。
この成長のけん引役は生成AI(人工知能)に他ならない。
世界中の半導体メーカーの注文を一手に担う台湾積体電路製造(TSMC)の業績は、その実態を如実に表している。2025年1~3月期は前年同月比で5四半期連続の増収増益となり、売上高・利益とも1~3月期として過去最高だった。
けん引したのはAI半導体だ。TSMCは、米エヌビディアのAI半導体の生産の全量を受託している。
23~24年は世界のスマートフォン出荷台数が2年連続で減少し、米アップルのiPhoneの販売台数も後退したことからTSMCの業績に打撃を与えかねなかったが、それを救ったのが22年末から巻き起こった生成AIブームだ。
25年1~3月期に、AI半導体を含むHPC(ハイ・パフォーマンス・コンピューティング)向けの売上高比率は59%で、スマホ向けは28%にまで縮小。スマホに代わってTSMCの業績をけん引していることが分かる。
TSMCがAI半導体向けの受託生産を増やす恩恵を受け、日本の東京エレクトロン、アドバンテスト、ディスコをはじめとする日本の半導体製造装置メーカーも業績を伸ばしてきた。
だが、その一方で、こうしたAIのサプライチェーンに属さない半導体メーカーの業績は厳しい。特に、自動車向けや産業機器向けを主力とするルネサスエレクトロニクスとロームは苦境に陥っている。そこにトランプ米大統領が打ち出す関税や電気自動車(EV)義務化の撤廃が追い打ちを掛けている。
次ページで、「非AI企業」のルネサスとロームの苦境の実態と、それがもたらす日本の半導体業界の行く末を見通す。