【鼎談】
異なる経験や視点を持つ者同士がつながるからこそ、
新しい価値・ビジネスの創出につながる

片岡 アジアの経済やビジネスについて日本側から発信する場合、アジアに対する独善的な思い込みを前提にして、日本の側から何かしてあげよう、というような、いわゆる「上から目線」が感じられることがあります。本書ではこうした勝手なアジア観による押しつけをなくすことに留意しました。

 「よいものをつくれば売れる」という考え方は最近では少なくなってきているものの、「上から目線」で日本製品のよさを押しつけるケースがまだ見受けられます。しかしそれだけでは海外市場への適応は難しく、「売れるものこそよいもの」という考え方も受け止める必要があると思います。

 また、日本企業には多くの要素を盛り込んだ、いわゆる「全部盛り」のような提案により、ビジネスの交渉を複雑にしてしまう傾向があります。シンプルな提案をベースにしつつ、必要に応じて要素を追加していく中国企業に負けることも少なくありません。日本企業のやり方が必ずしもアジアで通用するというわけではなく、伝えるべき要素に絞り込んだ提案にして、いかに本質を伝えるかという点をもっと研ぎ澄まして考えていく必要があると思います。

片岡 日本企業の「全部盛り」の提案は、1980年代から90年代にかけての「よいものをつくれば売れる」という発想に起因していると思われます。しかし、現代では単によいものをつくるだけでなく、エコシステムとしてのビジネスの仕組みが重要です。生産性向上には、人材やエネルギー、設備投資が効率的に行われることが必要で、政府の制度もそれを支える役割を果たす必要があります。アジア市場における大量生産から利益を得る形のモデルも方法のひとつですが、米国のテックジャイアントのような企業の隆盛が示すように、情報化社会では全体の仕組みを最適化する発想が大事になるわけです。

山本 私自身の経験のなかでも、日本の側から何かしてあげよう、というような「上から目線」が感じられることがあります。しかし現場感覚としては、日本が貢献できることがある一方で、我々日本もアジアから学ぶべきことが多くあると感じています。日本企業がアジアでビジネスを行う際は、お互いのよさを学び合う姿勢が大事だと考えます。日本の強みとしては、しっかりとした検討を踏まえた緻密な計画を策定して、着実に実行していくという点が挙げられますが、現地の変化に合わせた柔軟性には欠けています。例えば、日本人とシンガポール人でプロジェクトチームを組むと、日本人のメンバーの進め方は計画をしっかり策定して、着実にタスクを進める安心感がある一方、シンガポール人のメンバーは柔軟でアジャイルかつスピーディーな対応力に優れています。変化が激しいアジアでは、何か突発的な事象が起きた際のレジリエンス力も重要です。そういう意味でアジャイル的な動き方という点では、日本はアジアから学ぶべきでしょう。学び合うことができれば、これまで持っている日本の強みとアジアから学ぶ点の両方を兼ね備えてビジネスを推進することができ、よりマーケットに対して高い価値を提供することができます。

 また、アジアでは、日本は非常に真面目で計画的、かつホスピタリティも高いとして評価されていると感じます。中国やASEANのビジネスパーソンと話していても、こうした点は日本に学びたいと言われることが多いです。

日本で培った目線と国際的な視点、
そして展開する国や地域の強みを
どう組み合わせていくか

片岡 日本にはこれまで積み重ねてきたインフラや世界一の対外純資産といったストックがあります。これを自国の課題解決だけでなく、アジアをはじめとした他国との協力に活かすことが重要です。日本人が国際社会に貢献するためには、オープンマインドを持ってリスクをおそれず挑戦することや、国際的なネットワークを活用して共通の目標を見つけて協力することが求められます。

 現在は多極化が進展し、世界中に多様な機会と価値観が生まれています。この極めて速く大きな変化に対応するためには、まずは広い視野を持つことが求められます。

 例えば、日本市場は確かに一定の規模を有していますが、そこに安住せずに海外との交流を通じて新たな経験を積むことで、未来をより豊かに描くことができるはずです。

 これからの日本のビジネスパーソンには、自らの強みを活かしつつ、同時に世界から学ぶ姿勢を持つことが求められます。そして、プロフェッショナルである以上、自信を持って挑戦すること、謙虚に他者から学ぶ姿勢を忘れないこと。この自信と謙虚さの両立こそが未来を切り拓くうえでは不可欠です。

山本 大事なこととして、自分自身の意見をしっかりと持ち、表明することだと考えます。多くの日本人は相手に受け入れられるか気にしすぎてしまい、発言を躊躇してしまうことが多々見受けられます。他者と協力してビジネスを進める際には、まず自分の意見を持ち、それを伝えることがスタート地点であることは言うまでもありません。

 もうひとつは、違う意見や考えを受け入れる度量だと思います。日本は歴史的に日本の中での価値観で生きてきました。アジアにおいて多様な価値観が存在し、また新たに生まれる中、こういった異なる意見・考えに対しても受け入れていくことが大事だと考えます。異なる意見や考えを尊重し、それぞれぶつけあい、そして協力することで更なる価値が生まれてくるものと思います。

次回 4/21(月) 配信予定