湾岸戦争で有名になった李鎮淑委員長も
民主党の弾劾を受けていたが復帰

 こうした話を聞くと、「韓国の報道の現場はそれでよしとしているのか?」「民主党寄りの偏向報道はおかしいと思う報道記者はいないのか?」と思うかもしれない。

 先日、李鎮淑(イ・ジンスク)放送通信委員長の弾劾審判が終結した。弾劾したのは民主党だ。李鎮淑委員長はMBC記者出身で、記者たちの間では高い尊敬を集める人物である。1990年の湾岸戦争と2003年のイラク戦争に韓国女性初の従軍記者として参加し、戦場の生々しい実態を伝え、テロリストらへの直接取材したことで知られている。

 その後、MBC報道本部長、大田文化放送代表理事を歴任したが、左派と民主党勢力の影響力が強いMBCで困難に直面し、ついには記者協会から除名される事態も経験した。尹錫悦政権発足後は放送通信委員会委員長に就任したが、民主党主導の弾劾審判を受けていたため、数カ月間、十分な活動ができなかった。しかし1月23日、憲法裁判所が民主党の弾劾請求を棄却し、李鎮淑委員長は職務に復帰した。

 この復帰は、世論を無視していた民主党と司法府が、国民の意向をようやく意識し始めたためと解釈できる。一方で、今後尹錫悦大統領弾劾案が可決された場合、李鎮淑委員長も辞任せざるを得なくなるという分析もある。韓国のメディアで民主党に従わずに働くというのは、これほど困難なことなのだ。

20~30代を中心に、
民主党を信じない人々が増えてきた

 弾劾政局が始まって以来、民主党と李在明代表の動きは非常に活発だ。手続きを急ぎ、弾劾を確定させ、早期に大統領選挙を行って政権奪取を目指していたが、この計画には、徐々に様々な問題が生じている。民主党は「常に世論や民心を重視してきた」と主張するが、現在の民意は必ずしも民主党を支持していない。

 この政局の混乱を利用して、李在明代表は自身の犯罪容疑に関する裁判を繰り返し延期し(李在明代表は不動産ブローカーとの癒着や公職選挙法違反など、複数の事案で起訴されている:参考記事 )、民主党は言論統制や告訴・告発を多用している。民主党の告訴・告発戦術は以前から知られていたが(文在寅前大統領は在任中、自分を批判した一般市民を告訴したこともある)、それに説得される国民は減少傾向にある。特に20代と30代の若年層は民主党に対する強い拒否感を示しており、民主党からの離党手続きサイトがアクセス過多で接続困難になった事例もSNSで話題となった。

 民主党が影響力を持つメディアは、保守陣営の集会やデモに対して「極右」という表現を用いて世論誘導を図る一方、民主党系デモ隊や民主労総などには中立的表現を使うなど、報道姿勢に差が見られる。