それでも兄を愛している…
末っ子リンジーが至った境地
ところが今、リンジーはポイント・オブ・ザ・パインズにいて、かつて自分が恐れていた兄が心臓検診を必要としているかや、必要な書類にすべてサインしたかや、主治医がきちんと診察してくれているかを確かめている。
彼女は、存命中の他の病んだ兄たちのためにも、同じことをする。ドナルドには、今日の訪問の間中、細かく注意を払い、兄が廊下を歩く様子を見守る。兄が体に十分気をつけていないことを心配する。兄にできるかぎりのことをしてやりたいと願っている。
あれこれあったが、それでも彼女は兄を愛しているのだ。この変化は、どうして起こったのか?
ギャルヴィン一家のような家族がそもそも存在する確率を計算するのは不可能に見える。
まして、あれほど長く崩壊せず、ついに見出される確率は、想像を絶する。統合失調症の厳密な遺伝子のパターンは、まだどうしても突き止められていない。
その存在は窺われるのだが、洞窟の壁に揺らめく影のように、掴み所がない。研究者たちは1世紀以上前から、統合失調症のとりわけ大きな危険因子の1つが遺伝であることを理解している。
だが不思議にも、統合失調症は親から子へとは直接受け継がれないらしい。
精神科医も神経生物学者も遺伝学者もみな、どこかに統合失調症の遺伝暗号があるに違いないと信じていたが、いまだにその在りかを突き止められていない。
そこへギャルヴィン家の人々が登場し、これだけ大勢の患者がいたおかげで、この疾患の遺伝的プロセスについて、誰も願ってもみなかったほど深い見識が得られた。
1家族で統合失調症を抱えた6人の兄弟──同じ2人の親から生まれ、同じ遺伝系列に連なる、正真正銘の兄弟──に出会った研究者はかつてないことは確実だ。
「彼らは無価値じゃない」
壊れた家族のDNAが医学を動かした
ギャルヴィン家は1980年代から、統合失調症を理解するカギを探し求める研究者たちの調査の対象となった。