「私たちは今週、来る日も来る日も腰を落ち着けて、自分のものと一致する考えを詳述する人にも、相容れない考えを開陳する人にも耳を傾けることができました。そして、恐ろしい病気にかかることはけっしてなく、伝染したのは、相手のデータと見解に対して真剣に関心を抱く精神だけだったことを願っています」

 真の意味での和解に至るのは、まだずっと先のことだった。国立精神保健研究所の家族研究部門の責任者でやはりドラドビーチの会合に参加したデイヴィッド・ライスは、3年後にも依然として、遺伝を支持する人々と環境を支持する人々のことを、「敵対する陣営」と呼ぶことになる。

遺伝する、でも発症しないかも?
統合失調症をめぐる“最後の謎”

 だがこの膠着状態にはもっともな理由があった。

 ローゼンタールが締めくくりの言葉の中で認めたように、解決の糸口がつかめるのにさえ、さらに1世代かかることになる謎が1つ残っていたのだ。

 朗報がある、とローゼンタールは言った。

4つ子が全員「統合失調症」に…病いは「遺伝」か「育ち」か、研究者が出した結論は?『統合失調症の一族:遺伝か、環境か』(ロバート・コルカー〈著〉、柴田裕之〈翻訳〉、早川書房)

「これまでの年月に提起された合理的疑いがすべて晴れ、遺伝を支持する主張は、説得力のある形で持ちこたえました」。

 この会合は、「家族の相互作用の主要な研究者たちが、統合失調症の発現に遺伝が関係していることに、はっきり、公然と同意した折として記憶されうるでしょう」と彼は予言した。

 だが、育ちの側からのその歩み寄りは、いっそう不可解な疑問を投げ掛けるだけだった。「最も厳密な意味では、遺伝するのは統合失調症ではありません」とローゼンタールは述べた。

「その遺伝子を持っている人が全員、統合失調症を発症するわけではないことは明らかです」。

 統合失調症は確実に遺伝的だったが、必ず遺伝するわけではなかった。だから、誰もが相変わらず首を傾かしげていた。これはいったいどういうわけなのか?

 ローゼンタールは言った。

「統合失調症と結びつけられた遺伝子が引き起こす影響の本質を、私たちはまだ突き止められていません」