加藤勝信・財務相かとう・かつのぶ/1955年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業。1979年年大蔵省入省。衆院議員秘書を経て、2003年衆議院議員初当選。14年内閣人事局長、15年一億総活躍担当相、女性活躍担当相、17年厚生労働相、18年自民党総務会長、19年厚労相再就任、20年内閣官房長官、24年から現職。 Photo by Yuji Nomura

公務員の人材流出などにより、役所の仕事や教育現場などが危機にひんしている。優秀な人材を確保するために欠かせない公務員の「賃上げ」のキーパーソンである加藤勝信財務相に、待遇改善の必要性を聞いた。賃上げの原資となる国家予算を差配する現在の立場だけでなく、大蔵省職員、初代内閣人事局長、厚生労働相、働き方改革担当相などを務めた加藤氏は何を語るのか。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)

政治家が決断するための材料や選択肢を示す
中央省庁への期待は高い

――かつては、東京大学在学中に司法試験に受かり、成績がトップという人材が中央省庁に入るのが当たり前でした。現在は、むしろ外資系コンサルティング会社などの方が人気です。

(国家公務員の)人材確保はかなり難しくなっています。ただ、人材が活躍できるフィールドが広がったという見方もできる。(企業に就職する)皆さんも含め、全員の頑張りが結果的に国家や世界のために資すると思いますが、「直接、国のために仕事をしたい」と考えている人たちに来てもらえるよう、(中央省庁の仕事を)魅力あるものにすることが非常に大事です。

――公務の現場は限界にきていませんか。地方も含めた、道路の管理や教育といった現場に近い職場、首相をサポートする面々や対米交渉のチームといった国家の中枢、それぞれのレイヤーでの公務員の能力をどう評価していますか。今の機能を10年後も維持できるでしょうか。

 前者のレイヤーでいえば、教育現場の課題はかなり指摘されています。教師の処遇も含めてさまざまな問題があり、残念ながら心を病んでしまう方もいらっしゃる。現状は、持続可能ではないともいわれています。

 一方、中央官庁では、より政策的な仕事が多くなる。最終的な判断は大臣や政治家がしますが、そこに至るまでのプロセスで、現状分析とか、どういう選択肢があるのかといった部分は、(官僚が)どこまで(判断材料を)つくってくれるのかが重要で、その点で、中央省庁で働く方々への期待は大きいのです。

――財務省はかつて公務員志望の学生から一番人気でしたが、最近はどうでしょうか。人材の獲得と離職防止のために何が必要ですか。

 財務省だけでなく、昔に比べると厳しくなってきたと採用の担当者から聞いています。ただ、(志願者の母数となる)学生らの数がかなり少なくなっています。それから学生の選択肢も相当広がってきて、商社や銀行などに加え、コンサルなども出てきてるし、スタートアップを立ち上げる人も増えています。

 そういう中で、公務員の仕事の面白さとか、やりがいをしっかり発信していくべきです。

財務省解体デモの背景に「国民の困窮」
問題に対応する知恵を出し、役割をアピールする

――「財務省解体デモ」が行われているのは、採用にとってネガティブだと思います。職員に対してどういった話をしていますか。

 デモの背景にどういう国民の思いがあるのか。やっぱり物価上昇とか、生活の厳しさがあると思う。政治として、そういった思いにどう対応するのか、そのための知恵を役所からどう出していくかです。

(財務省を志望して)来る人から見ると、確かにネガティブな部分はあるとは思いますが、そこのところをわれわれ自身がどう乗り越えていくのか(が重要)です。財務省なら財務省の、中央官庁なら中央官庁の仕事がどういうもので、どんな役割を果たしているのか、そして国民の皆さんの生活にどうつながってるのかをしっかりPRしていくということがすごく大事です。

 今はインターネットやSNSがあるから、ああいうデモにもつながってるのかもしれないけれども、逆に言えば、ネット社会になった中で、SNSなどを使いながら、いかにタイムリーに発信していくのか勉強しなければいけないと思います。役所の広報は堅いですから。

――民間は給与が上がって、官民の給与格差は広がっています。

 新型コロナウイルスの感染拡大やデフレの中で、皆が我慢してきました。賃金が上がり、物価が上がるようにしましょうとやってきて、モメンタムが変わろうとしています。民間が先に動くけれども、それに合わせて公務員、あるいは公的な制度で運営されている医療とか教育、保育も含めて改善していかないと社会全体として賃金が上がっていきません。

――加藤財相がそういった前向きなメッセージを発すると、公務員に希望が出てくると思います。

 そういう(賃上げ基調の)中で、より高いパフォーマンスを出していく。公務で国民の皆さんの期待に応えることが一番大事なことです。そのことがまた働く人のやりがいにつながるという、良いサイクルをつくっていくのがわれわれの仕事です。

 ダイヤモンド・オンラインでは、加藤財相へのインタビュー記事の完全版『【加藤財務相インタビュー完全版】「官僚の賃上げ」の必要性を激白、非正規公務員の待遇も改善するべき』を完全無料公開中です。公務員の処遇改善や、公務員へのパワハラ防止策の必要性、政治任用の拡大の是非などについて余すところなく語ってもらった。