「精巧な電子機器のパーツをミリ、ミクロン単位で作れる技術がすごい!」
と、工場見学に来た観光客の興奮がダイレクトに現場で働く人々に伝わることで、工場で働く人にスポットライトが当たりました。その結果、工場で働く職人さんや現場の方々の熟練の技がリスペクトを持って目に止まることで、八尾の街が輝き出したのです。

工場でのお仕事は、基本はBtoBになります。ねじやプレス機を作っている人たちは、普段、外部の人と接触する機会はなかなかありません。ところが、観光をきっかけに関心を持たれたり、褒められたりすることで働く人たちの意識がガラリと変わります。
人手不足に悩んでいた工場の離職率の低下につながるかもしれません。あるいは、日本の技術を目の当たりにした観光客の中には「うちの国でもこれは応用できるぞ」「この機械は別の用途にも使えそうだ」と考える人も出てくるかもしれません。観光がきっかけとなって、新しい事業や雇用が生まれる可能性も出てくるのです。
外部との接点によって
地域にイノベーションが起こる
さらに言うと、オープンファクトリーには「企業が工場を公開することで、これまではコンペティター(競争相手)であった地元の同業間の人たちに連携が生まれる」という側面もあります。
それまで疎遠だった同業者との間にコミュニケーションが芽生えることで、互いの長所を学び合ったり、課題を共有することで作業の効率化が進んだり。実際に、オープンファクトリーでの交流がきっかけとなってバックオフィスのDX化が採用され、「今までは手書きだった伝票発行がパソコンでできるようになった」というちょっとしたイノベーションが起きた事例もありました。
このように、外部の人と接する場を作ることで、地域の人たちにも連帯が生まれ、新しいことを始めたり、デジタル化が進んだりします。こうして地域が仕事や人のつながりでアップデートされていくのは、本質的な地方創生につながると思うのです。
岸田政権時に「官民挙げてのスタートアップ支援」が声高に叫ばれたからでしょう、地方自治体は新産業やスタートアップの誘致をどこも活発にやっており、外から引っ張ることに躍起です。でも、わざわざ外から引っ張るだけではなく、地域にある継続してきたものに光を当てて、観光と掛け合わせることで、新産業やスタートアップが生まれて育つ可能性だって十分あると思うのです。