これは観光の本義としてものすごく意味のあることで、「写真を撮って、SNSだけ投稿して帰る人」と比べると、建築を見て回ることでその地域の歴史や文化を理解してくれます。さらには歩いて回るので食事や宿泊など、観光消費もしっかり見込めます。
そして、知見を得ると伝えたくなるのが人の性。SNSであったり、OTA(編集部注/オンラインで宿泊券などの手配を行う、店舗を持たない旅行代理店)やGoogleマップの投稿へとつながります。事実、建築ツーリズム界隈は熱量の高い投稿が多いです。歩き回ることで愛着も湧くため、また来たくなるのがミソです。
長崎や神戸、横浜、函館をはじめ、日本には海外からの観光客もスッと入り込めるような歴史を感じさせる建築物がたくさんあります。北前船が就航していた頃の領事館や、あるいは前川國男や丹下健三などに代表される近代建築の作品群など、その建築群を見ることを主な目的とする国内外の観光客が徐々に増えています。
工夫次第で体験価値が
爆上がりする「建築ツーリズム」
もとより、建築という有形文化財をフックに文化意識の高い観光客を呼び込み、食や宿、付近のアクティビティを周遊させるような取り組みは観光と相性がとてもいいと感じていました。
文化的に成熟した旅行客を呼び込むという点では、アートイベントも各地で人気です。けれども、イベント制作においてはアーティストのキュレーション、キャスティング、作品の制作費や長期の進行管理、それにプロモーションや運営費も乗っかり、収支を合わせるのが本当に難しく、継続イベントとして成立しているものはそう多くはないのが実情です。
その点、すでに街に溶け込んだ「建築」を柱に据えた建築ツーリズムは、施設のオーナーに期間限定の一般公開のお願いをすれば、気にすべきは掃除代くらい。もちろん、プロモーションや運営費はかかりますが、圧倒的に収支を組みやすいと考えられます。
建築は有形文化財ですが、無形文化財にも「観光と掛け合わせるべきもの」は多々あって、私は民藝、伝統工芸も強く推したいです。なぜなら、やり方を工夫すればとてつもなく体験価値の高い観光コンテンツに化ける可能性があるから、です。