そこで登場したのが、職能資格制度です。職能資格制度は、社員個々人の職務遂行能力に応じて職能給を支払うというだけではなく、等級制度・評価制度・報酬制度、さらに、能力開発を包含し連動させた「トータル人事制度」である点が特徴で、長期雇用を前提とした能力開発主義の制度です。

 その意味において、非常に優れた人材マネジメントフレームです。1960年代後半から1970年代にかけて、職能資格制度は広く普及します。

 労政時報の調査「基本給の昇降給ルールと賞与制度の最新実態」(2023年)によると、一般社員層に能力給/職能給を導入している企業は52.5%、管理職層でも42.0%であり、現在においても、職能資格制度は人事制度の主流であると言えます。職能資格制度以前の時代も含めて、日本の人事制度は、ずっと「ヒト」基準でした。

 それなのに、近年になって、なぜ再び「仕事」基準が注目され、ジョブ型の導入が広がっているのでしょうか?

 労働者の高齢化は、かつてないほど進んでいます。職能資格制度は単純な勤続年数ベースではないとはいえ、実際の運用としては、年功序列の色合いが濃いことは否めません。

 その結果、管理職層・中高年社員層の人件費負担は重く、職責と処遇のバランスの歪みが目立つ状況です。また、労働者の高齢化、長年の運用による職能資格制度の劣化とともに、グローバル化の進展も見逃せないキーワードです。

経済の活性化に向けた
労働移動は進むのか?

 優秀なグローバル人材の確保や活用のためには、海外現地法人の人事制度との整合性を求められる場面が少なくありません。国内中心の企業であっても、若手人材の就「職」志向の高まりに対して、職種別採用などの施策を取り入れる企業が増えています。

 そしてもう1つ、これら個別企業のニーズに対応するという観点とは別に、政府は、ジョブ型は「労働移動」を促進するという文脈で語っています。

 先の岸田内閣は経済の活性化と労働市場の効率化のために、労働移動を促進する政策を打ち出しており、とくに、働き方改革の一環として、ジョブ型雇用やキャリアアップの支援を推奨していました。成熟産業・衰退産業から成長産業・重点産業への人材シフトを促進する施策だというわけです。

 岸田内閣は、2023年に「新しい資本主義実現会議」でジョブ型雇用の目的や人材の配置・育成・評価方法について整理する方針を決め、2024年に「ジョブ型人事指針」を策定して、経団連主催の「ジョブ型人事説明会」で、ジョブ型人事の導入促進に向けた考えを示したりしています。