利用記録・残高情報は順次、中継サーバーを介してセンターサーバーに送られる。自動改札機、簡易型自動改札機、車載型改札機など複数形態が存在するICOCAだが、端末の種類が異なるだけで、基本的なシステム構成は同じだ。

 ICカード乗車券システムにコストがかかるのは、Felicaカード、リーダ・ライタ端末、サーバーなどの設備投資が必要だからだ。

 では、なぜ中小事業者が簡易型ICOCAを導入できるのか。酒井氏は地域のニーズに特化した形でカスタマイズされているからと説明する。

「極端な例でいきますと、例えば、全区間180円というところに、運賃計算の仕組みは要りません。事業者によって必要のない機能をそぎ落とすことで、取り扱いデータを減らすことができます」

単なる「商品売り」ではない
JR西日本のソリューション外販

 JR西日本のように多数の駅、複数の経路、複雑な営業制度があるとプログラムの構築と検証に費用がかかるが、中小事業者はそうではない。また、利用者数が少ないため、通信回線やサーバー規模、端末の仕様も都市部とは変わってくる。

「鉄道向けのリーダ・ライタ端末は、通勤時間帯を想定して1分あたり45人以上というハイスペックな処理速度を仕様としていますが、地方に行くとそこまで短時間で処理する必要はないので、物販用レベルの端末でいいんじゃないか」

 しかし、JR西日本は簡易型ICOCAをカタログに載せて「商品」として売り込んでいるわけではない。その理由は当連載の2024年3月4日付「JR西日本の新技術が『日ハムの新球場』に導入された納得の理由」で次のように書いた通りだ。

JR西日本のソリューション外販は、技術をそのままに売り込む「代理店」でも、課題を探る「コンサル」でもない。顧客と話し合いを重ねながら課題を見つけ出し、必要なソリューションを提案。導入にあたっては顧客のニーズにあわせたカスタマイズをしながら実装していく、一気通貫の「課題解決力」と「伴走力」が唯一無二の強みとなる。

 酒井氏も「今ある仕組みをそのまま売ろうっていう発想は持ってない」として「我々のソリューションを活用していただきたい、使ってくださいというよりは、活用して何かできますよ。なんかできませんか?みたいなスタンスです」と語る。