日本のICカード乗車券はJR東日本が2001年に導入したSuicaから始まった。続いて2003年にJR西日本がICOCA、2004年に関西の民営事業者がPiTaPa、2006年にJR東海がTOICA、2007年には関東の民営事業者がPASMOを導入し、東名阪の都市鉄道はおおむねカバーされた。

 以降は北海道、九州、東北、北陸にICカード乗車券が登場し、2013年に主要10カードを中心とする「全国IC相互利用サービス」が始まったが、導入には一定のコストがかかるため地方への普及は足踏みした。

「簡易型IC端末」の
提供により導入が加速

 そこに目を付けたのがJR西日本だ。同社はコロナ禍を受けて2020年10月に「JR西日本グループデジタル戦略」を策定し、11月にデジタルソリューション本部を設立。鉄道事業の構造改革(DX)と社外へのソリューション販売を一体的に進めるオープンイノベーションの取り組みに着手した。その成果は当連載でもたびたび取り上げてきた通りだ。

 デジタル戦略の柱のひとつが、クレジットカード「J-WESTカード」、「モバイルICOCA」、「Wesmo!」をWESTERポイントで結びつける「WESTERワールド」の構築だ。その第一歩がICOCAユーザーの拡大になる。

 ICOCA利用可能エリアは近畿圏から郊外に拡大していったが、2019年以降は設置コストの少ない「車載型IC改札機」型を境線、和歌山線、七尾線などローカル線区への導入に着手した。

 そして、2021年に地域鉄道・バス事業者へのICOCAシステム販売を開始。2022年にコストの少ない「簡易型IC端末」の提供を始めたことで導入が加速した。「簡易型」とは端末を指す言葉であるが、便宜上、地域鉄道・バス事業者向けのものを「簡易型ICOCA」と記したい。

 JR西日本のICOCAサービスはいくつかのタイプがあるが、基本的にはいずれも同じ仕組みだ。Suicaに代表される全国共通ICカード乗車券システムは、ICカードFelicaを中心に構成される。運賃はカードに記録された乗車駅(バス停)情報とリーダ・ライタ端末に内蔵された運賃テーブルから計算し、カードに新しい残高情報を書き換える。