3つの落とし穴に陥らないための
「ずらし」の技術とは?
これら3つの落とし穴に陥らないためにはどうすればいいか。一言で言えば、キーワードは「ずらし(差延)」である。まず、軸足は動かさず、もう一方の足をずらす。バスケットボールのゲームで使われる「ピボット(軸旋回)」という運動である。それによって、軸(強みとなる資産)をずらさず、方向を360度変えることが可能になる。
次に型をずらす。型をさらにモジュールに分解することで、多様な組み合わせができるようにする。あるいは新たな型を生み出し、それを既存の型と組み合わせる。そのような「型ずらし」によって、既存の資産を再活用(regenerate)することが可能になる。
最後に、軸そのものをずらす。その結果、新しい時空や異次元の価値に大きくずらしていく。これは破を超えて、「離」の技につながる。
この「ずらし」は、実は日本語特有の意味を持った言葉である。「なめらかに滑らせる」という微妙なイメージを内包しているからだ。英語では、「shift」と訳されることが多いが、それだと無機質に響く。「extension(延長)」だと有機的だが、同質性から抜け出せない。「deviation(逸脱)」だと、逆に異質性が強調されすぎる。フランスの哲学者ジャック・デリダの造語「differance(差延)」が、最も近い語感を持っている。微妙なずれや逸脱を意味するからだ。
いずれにせよ安易に外来語に頼ることなく、ヤマト言葉の持つ豊かな語感を大切にしたいものである。