「石の上にも三年」を完遂してから
「破」に挑むべし
すると大前さんは、「3年早い」と即答。「まず、コンサルとしての基本ステップをしっかりマスターすること。それができて、初めて自由自在に自己流のパフォーマンスができるようになる」
まさに「守」あっての「破」という教えである。それ以来、筆者は余計なことを考えず、マッキンゼー流の問題解決手法を徹底的に習得し、大前さんをはじめ超一流コンサルの価値創造の技法を、盗めるだけ盗みまくった。これもいまにして思えば、大前さんが最初の名著『企業参謀』(プレジデント社)の裏で演じていた「功積み」を、筆者なりに演じたプロセスだったといえよう。「日本流」経営コンサルは、こうして誕生していくのである。
「守」にかかる時間は、業種業態によってまちまちで、個人差もある。しかし、筆者が商社マン、そしてコンサルタントとしての基本型の習得に3年かかったことは、偶然の一致ではあるまい。「石の上にも三年」というが、一つの学習サイクルとして3年という歳月は、それなりに意味のある期間なのかもしれない。
「タイパ」の時代に古臭い、あるいはAIを活用すればあっという間にできるはず、と思われるかもしれない。しかし、学ぶのは生身の身体である。分かったつもりになるだけでなく、身体知に落とし込まなければならない。そのための「功積み」には、必要な時間を惜しみなくかける必要があるだろう。
では、「破」と「離」には、どれだけ時間がかかるのだろうか。これこそ一概には言えないが、軽く10年はかかりそうだ。
たとえば、達磨大師。中国禅宗の開祖とされるインド人の僧侶だ。悟りを開くために、9年間、誰とも会話することなく、壁を向いて座禅を続けたという。「面壁9年」と呼ばれる有名なエピソードだ。その結果、悟りを開くことができたものの、足が腐ってしまったという。だるまさんに足がない理由として、語り継がれている。
座禅を旨とする禅宗ならではの教えである。しかし、実際のビジネスでは「悟り」を開くだけでなく、それに基づいて結果を出す必要がある。そのためには、身体もしっかり鍛錬しなければならない。その意味でも、石の上には3年程度で十分。その後は、みずからの身心をしっかり動かして、「型破り」を始めなければならない。