基本は大切だが
それだけでは成長しない
すべてはまず、基本を学ぶことから始まる。基本の型を会得しないまま、いきなり自己流を発揮しようとすると、「型なし」となる。
とはいえ、型に従っているだけではそれ以上の成長は期待できない。進化していくためには、これまでの型を破る必要がある。まさに「型破り」である。型が身についているからこそ、型破りが可能となる。
これは日本だけのお家芸ではない。たとえばアップルの創業者スティーブ・ジョブズは、「Get Out of Box(箱から出ろ)」を口癖としていた。まさに型破りのすすめである。しかし、そのためにはまず、「箱(Box)=常識」を見極めることから始めなければならない、とクギを刺すことを忘れなかった。
筆者も、社会人ルーキー時代に、まさに「型」の大切さを実感した。三菱商事のプラント部門に配属された筆者を、先輩たちは「我々の背中を見て覚えろ」とばかりに実戦に担ぎ出す。いかにも商社らしい鍛え方だ。
しかし、それでは時間もかかるし偏りも出る。そこで筆者は、若手有志と協働して、プラント事業に必要な「型」の収集と編集を、時間外プロジェクトとしてスタート。その後、「技術編」「ファイナンス編」「プロマネ(プロジェクトマネジメント)編」という3つの「型集」として積み上げていった。
それから3年後、ニューヨークに転勤し、「型破り」に挑戦することになった。生き馬の目を抜くようなビジネスの最前線では、基本技だけでは歯が立たない。百戦錬磨の経営者や野心にあふれる起業家、超一流の投資銀行や弁護士事務所のプロ集団にもまれながら、みずからの技を懸命に磨いていった。いまから思えばそれは、型を踏まえながら型を破り、新しい型をつくり上げるプロセスだったといえよう。
その後、マッキンゼーに入社した当時にも忘れられない思い出がある。畏敬する大前研一さんが率いるプロジェクトに参加した時のことである。「どうすれば大前さんのような仕事ができるようになれるのでしょうか」と、いまから思うとなんとも間抜けな質問をしてしまった。