「破」に転じる際に
避けたい3つの落とし穴

 さて、いよいよ守から破に転じるにはどうすればいいか。規定演技から自由演技に進むからといって、自由奔放にやればいいということではない。ここではまず、よく陥りがちな3つの「なし」から押さえておこう。

 第一に、「軸なし」に陥ること。自由だからといって、まったく新しいことをゼロベースで始めようとすると、成功確率もゼロベースになってしまう。いままで学んできたことが活かせないからだ。たとえば、いま日本ではリスキリングというカタカナ英語が感染爆発している。しかし、単に新しいスキルを身につけるだけでは、着せ替え人形と変わらない。もっとも「コスプレ」世代には、得意な身のこなしかもしれないが。

 第二に、「型なし」に陥ること。「型破り」の結果、型がなくなってしまうと「型なし」となる。破のプロセスにおいては、型をなくすのではなく、新しく型をつくることがカギとなる。

「破壊的イノベーション」という勇ましいアメリカ流の経営モデルが、もてはやされている。しかし、既存の型を破壊するのではなく、組み替えることで、初めて次世代イノベーションが可能となる。1世紀近く前にイノベーションという言葉を最初に提唱した経済学者シュンペーターは、それを「創造的破壊」と呼ぶ。単なる破壊は命とりとなることを、肝に銘じる必要がある。

 第三に、「限界なし」に陥ること。「リミットレス」という幻想である。新しい世界は、無限の可能性が広がっているように見える。しかし、そこにも当然、成長の限界はつきものだ。いわゆる「成長のSカーブ」である。いま、生成AIが破竹の勢いで成長している。しかし、いずれ成長の限界を迎えるはずだ。たとえ技術的にリミットレスであったとしても、いずれ社会的、倫理的な制約がかかってくる。生成AIの壁を「脱」する新たな知恵が求められることは、必然である。