アパホテルには泊まれない!
富裕層誘致が困難に

 高級ホテルが足りないと、その影響で、日本人が出張や観光で利用するビジネスホテルやシティホテルの値段まで吊り上がってしまう。

 東京商工リサーチの調査によると、ビジネスホテル(8ブランド)の客室単価を比較(19年10月~12月と24年10月~12月を比較)すると約45%増の1万3986円、シティホテル(4ブランド)は同様に約35%増の2万897円だという。

 そして実は、高級ホテルが不足すると価格高騰以外にも問題がある。海外の富裕層やVIP客が旅先に日本を検討する際、「ホテルには最低1泊この程度の費用をかけたい」といった最低価格の要望に応えられず、富裕層を呼び込めないのだ。

 実際にあった例として福岡市は19年、G20サミットの誘致に失敗している。各国首脳や随行団が宿泊できる高級ホテルの客室数が足りなかったからだ。

 また、アトキンソン氏は自身のエピソードとして、紅葉の京都に興味を持つ米国人富裕層を招待しようとしたが高級ホテルを予約できず、アパホテルしか空きがないため断念したと語っている。

人手不足のホテル業界
平均年収が低く賃上げも課題

 こうした事態に対し、日本政府も手をこまねいているわけではない。例えば、全国に35カ所ある国立公園に、環境保全を前提とした高級リゾートホテルを誘致する方針だ。

 しかしホテルという箱が増えても、高度なホスピタリティを提供する人材が不足していては、高級ホテル不足を根本的に解決できるとは言えないだろう。

 これは高級ホテルに限らず宿泊業全体だが、その従業者は正社員・非正社員ともに人手不足の割合が高い(帝国データバンク調べ、25年1月)。また、サービス・ツーリズム産業労働組合連合会の調査によると、人手不足で営業制限せざるを得ない施設も多いという。

 高級ホテルともなるとハイレベルな人材が求められ、人員不足はより顕著になる。海外には一流大学にホスピタリティ専科やビジネススクールが設けられている。しかし日本には京都大学MBAに、米コーネル大学と提携したプログラムがあるくらいだ。

 日本にも、世界レベルのホテル人材を育てる高度な専門機関が欲しいところ。これは、外資に押されがちな日系ホテルの国際競争力を高めるためにも重要だ。

 また、これも高級ホテルに限らず宿泊業全体だが、残念ながら賃金が低い傾向にある業種となっている。一例としてホテルスタッフの平均年収は361万円(制写真、求人ボックス給料ナビ調べ)という調査もある。賃上げも、優秀な人材を確保するために欠かせない。