「CX-60」の足回り問題
マツダのラージ商品群の記事を書くに当たって、どうしても触れておかなければならない事がある。クルマに詳しい方なら、あるいはマツダ周辺の方ならご存じだろう。ラージ車の嚆矢として放たれた、「CX-60」の「足回り問題」である。
マツダはブランド価値の向上と収益性の改善を目指して、車格が高く値段も高い「ラージ群」なる商品を展開している。高級車の証であるFRベースのプラットフォームを開発し、直列6気筒エンジンやPHEVなど、プレミアム市場を意識したパワーユニットを搭載した意欲的な商品群だ。その「はじめの一歩」となったのがCX-60である。

実はCX-60には特別な思い出がある。5年ほど前だったか、後部座席にたくさんの計測機器が積まれたままの、発売直前のシェイクダウンを行うクルマに試乗する機会を得たのだ。
走り出して間もなく、松田聖子さん風に言えばビビビと来た。メルセデスにもBMWにも引けを取らないドライバビリティ。どんなに飛ばしても怖くないスタビリティ。SUVなのにスポーツカーのようなクイックさも持っていた。「日本のクルマもここまで来たか」と感嘆したものだった。助手席に座る操縦安定性能エンジニア、ムッシー虫谷氏から感想を聞かれた際、「いや……凄いっス……」としか言えない己が語彙力の低さに恥じ入るばかりだった。当時の試乗記事ではそのナチュラルな運転感覚を「歩くように走る」と表現し、マツダの広報部から「あの言葉を拝借できないか?」と打診があり、快諾したことを覚えている。テストコースで乗ったCX-60は、それほどスゴかったのだ。
しかし、市場の反応は宜しくなかった。特に足回りに関しては「ゴツゴツする」「バタバタする」「尻が跳ねる」と散々なものだった。「走る歓び」を追求するあまりに、「ドライバーズカー」を目指すばかりに、サスペンションを締め過ぎてしまい、一般ユーザーが求める「快適性」から遠くかけ離れてしまったのだ。
こうした背景があることをご理解いただいたうえで、以下のインタビューを聞いてほしい。