生成AIも活用しながらグローバルなデジタルドリブン経営を目指す
大坪 現場の人々がデータを使いこなすことで、新商品や新サービスが生まれるような例は出てきていますか。
富永 具体的な製品はこれからですが、ランニングエコシステムにおいては新たなサービスが生まれつつあります。例えば、2024年の「富士山マラソン」で、海外から参加するランナー向けに、リゾートホテルの宿泊や送迎、VIPスペースの利用などをパッケージにした100万円のプレミアムサービスを試験的に提供したのですが、非常に好評でした。
エコシステム構築前は、マラソン大会に協賛しても、大会エキスポと大会当日の実質3日間ぐらいしかランナーとの接点がありませんでした。今はレース登録の段階から関わっていますから、大会の半年前から情報やサービスを提供できる(図1参照)。新しいビジネスが生み出せる余地はまだまだあります。
大坪 一連のM&Aでは、最初からこうしたビジネスも見据えていたのでしょうか。
富永 ランニングアプリ〈Runkeeper〉を買収した時点では「エコシステム」という構想はありませんでしたが、その後、各国のレース登録会社を傘下に加えていく過程で徐々に見えてきた形です。レース登録会社のオーナーは若いアントレプレナーが多く、積極的にワイルドなアイデアを提案してきてくれることも大きいですね。
このようなエコシステムが成長するにつれて、データ分析のプロやデジタルビジネスの知見がある人たちが興味を持ってどんどん集まってきてくれる。今、そういう人たちがワイワイと盛り上がっている状況です。
大坪 CIO(最高情報責任者)、CDO(最高デジタル責任者)を経て社長COO(最高執行責任者)に就任した富永さんのご経験を踏まえて、CIOやCDOはどんな役割を果たすべきだとお考えですか。

富永満之 代表取締役社長COO
とみなが・みつゆき●兵庫県神戸市出身。米カリフォルニア・ポリテクニック州立大学卒、米パデュー大でMBA取得。1987年アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)入社。96年日本IBM入社、2009年同社執行役員。13年SAPジャパン入社、常務執行役員。16年ワークスアプリケーションズ米国、代表取締役社長。18年アシックス入社。執行役員CIO、20年常務執行役員 CDO・CIOを経て24年1月社長COO、3月代表取締役社長COOに就任。
富永 私はアシックスに入社するまで、IT企業側から事業会社に提案する立場でした。一方、CIO、CDOは経営層の一員ですから、ただテクノロジーを導入するだけでは意味がありません。ITツールが経営課題にどう貢献できるかを言語化し、実行することが必要ですし、テクノロジーの専門用語を振り回すのではなく、「経営の言葉で語れる」ことが大事だと思います。
大坪 最後に、今後のデジタルの活用イメージについてお聞かせください。
富永 OneASICS経営を定着させ、それを土台に生成AIのような新しいツールを活用して新しい展開を構想していくことですね。私たちは、さらなる「グローバル×デジタル」の推進により、より有機的なカテゴリー経営体制の構築を目指し、GIE(Global Integrated Enterprise)への変革を実行しています。DXによって日本の本社と世界の販売会社の距離が縮まってきていますし、販売会社にもIT人財やマーケティング人財が増えてきていますから、共にグローバルな全体最適を目指していきます。
特に今、保護主義だとか、関税だとか、新しいトピックも出てきています。それらを踏まえ、データを見ながら「世界のどこで何をするか」という判断ができる会社になりたいと思っています。
大坪 デジタル技術と共に人財やアイデアも入ってきて、組織文化も変わりつつある──。まさに「トランスフォーメーション」と呼ぶにふさわしいDXですね。本日はありがとうございました。