「終身雇用の時代は終わった」ことを
どう理解させるか

渋田 「管理職」になりたがらない社会人が増えているという話もありますよね。「管理職」という言葉自体があたかもハラスメントをする主体であるかのように連想させてしまっている。保護者もその旧来の価値観を引きずっていて、無意識に、子を管理職やリーダーにさせたくない気持ちがあり、子にそれが伝わるのかもしれません。

西村 確かに保護者の意識はあまりアップデートされていない。子どもたちに「将来の日本は希望に満ちた社会になっていると思うか」と聞くと、「大変な困難な社会になる」という答えが圧倒的に多いです。こう言わせてしまう大人の責任は大きい。

 私たちは「だとしたら、誰かに任せるのではなく、自分たちで変えていこう」と伝えています。保護者世代にはまだ「国や企業が何とかしてくれる」という終身雇用、親方日の丸の考え方が残っていますが、子どもたちはそんな時代には生きられません。

 なおさら、大学入試に対応する学力以外(もちろん学力はあったうえで、です)の生きる力をつけることを考える必要があります。そのうちのひとつとして、親が子に遺せる最大の財産は「困ったときに助けてくれる仲間」です。全寮制ではそういう仲間がたくさんできます。

渋田 最近は、昔と比べて個人を大事にする傾向も強くなっているということもありますね。

西村 おっしゃるとおり、子どもの意見を尊重しすぎることで、失敗や負けを経験しない子が増えています。寮生活では、全員が正しいことを主張したとしても、採用されるのはそのうちの1つの意見です。「正しいだけでは勝てない」ことを学ぶのです。

 正しく、かつ、みんなのことを考えた意見、将来のことまで考えた意見でなければ通らない。今の家庭環境では兄弟も少ないため、こうした感覚が身につきにくくなっていますから。

渋田 今の時代に敢えて男子校として運営されている理由は。

西村 男子のリーダー育成という点で意味があると考えています。男女では発達段階が違っており、一般に女子のほうが成長が早い。発達途中の時期に組織の中で最もふさわしい人がリーダーになるべきという考えに立つと、女子が必然的にリーダーになります。

 そうすると中高時代に男子はリーダーになる経験をする機会がどうしても少なくなってしまう。そんな形で男子がリーダー経験をせずに社会に出てしまうのは問題です。ですから、男子のリーダー育成に特化しています。

渋田 確かに、「共学にしたとたん、運動会の応援団長が全員女子になった」という例も聞きますからね。