「管理職はコスパ悪い」「リーダーは損」な世の中で、校長先生が言うのをやめたNGワード生徒たちが生活するハウスや学校施設は愛知県三河湾に面している 写真提供:海陽学園

離れることで
親子関係の質が高まる

渋田 全寮生というと、365日学校にいるイメージかもしれませんが、実際は約100日程度は家庭に戻りますよね。保護者も我が子の成長に気づく機会があるのでは。

西村 1カ月半に1回くらい家に帰ります。「靴を揃えるようになった」「布団を上げるようになった」「理路整然と話すようになった」など保護者は子どもの成長をよく感じるようです。

 毎日会っていると会話も少なくなりがちですが、離れていると1カ月分の話をしたくなります。些末なことではなく「こんなことがあって、みんなでこう解決した」といった本質的な会話ができるようになります。保護者もそれに共感したりアドバイスしたりできるので、親子関係も良好に保たれます。

渋田 子どもが寮に入ってしまうとお互い寂しいのでは、と思われるかもしれませんが、逆ですよね。特に男の子は思春期に親とほとんど話さなくなる場合も多く、また最近は一人っ子家庭も増えて、親子関係が近くなりすぎて難しい。普段は離れているからこそ、充実した親子関係が築けるということでしょうね。

西村 全くその通りです。ずっと一緒にいたら真面目な話は却ってしにくいものですが、限られた時間だからこそ質の高い対話ができる。それ以外の時間は、ぜひ各家庭の考え方を子どもに伝えてほしいですね。学校と家庭のバランスがとても大切です。

「リーダーになりたがらない」
最近の風潮

渋田 開校から20年近くたちましたが、子どもたちの気質の変化はありますか。

西村 初期の頃は「僕は総理大臣になりたいです」と言って入ってくる子がたくさんいました。しかし今は、リーダーになりたいと思う子が少なくなっています。社会全体でも「管理職はタイパが悪い、コスパが悪い」「リーダーをやったら損」という風潮があります。

 そこで「社会で活躍するための力をつけましょう」という言い方をしています。意味は同じなのですが、「リーダーになりなさい」とは言わなくなりました。

 当時はスマートフォンもなかったので、その点も大きく違います。コロナ前後でも変化がありました。今は基本的にスマホは学校で預かって、学校で過ごす間は使わないルールにしています。