そう言うと「忙しいのにそんな余裕はない」と思う方もいるでしょうが、部下の話は報告や連絡が多く、しっかり受け止めれば、2分程度で終わります。こちらが受け答えをしても、会話自体は5分ほどで済むはずです。たった数分、全身を部下に向けて話を聞けば、自分の話を聞いてくれる人だと認識するので信頼が増します。そうなると、上司、経営者の話もちゃんと聞こうと思えるので、マネジメントが上手く機能し始めます。

 部下は、あなたにとって大切な存在のはずです。大切な人の話をきちんと受け止めることと、目の前の作業をてんびんにかければ、どちらが重要なことなのかは自明でしょう。

 もちろん、状況によっては、聞くことに時間が割けない場合もあります。その際は、理由を説明して、作業をしながら聞いても良いかどうか尋ねて部下に許可を得てください。もしくは、いつであればしっかり聞けるのか伝えて、改めて話をしてもらうようにしましょう。

“任せるマネジメント”に効く
2つの「きく」とは

 聞くときのポイントは、相手が話しやすいと感じる柔らかい表情でいることを意識してください。うなずく、相づちを打つなどして、こちらがきちんと受け止めていることが分かるようなリアクションをすることも必要です。

 仕事を任せる際は、相手のことを理解することは必須です。その際、もう一つの「訊く」である「質問」をすれば、心境の変化や現状が分かるので、部下のことを理解するのに効果的です。

 また、質問すると部下の行動が促進されます。誰かに「○○をやりなさい!」と指示命令されたことよりも、「何から取り組みますか?」と質問され、自ら「○○から始めます」と答えたほうが、前向きな気持ちで取り組めます。

 実際、1985年にアメリカの心理学者であるエドワード・デシ(Edward L. Deci)とリチャード・ライアン(Richard M. Ryan)が、「他の人から指示命令されて行動するよりも、自分で物事を決め、自身の意志で行動する方が、より良い成果が出るとともに行動の『質』も高くなる」と、『自己決定理論』の中で提唱しています。

 これは、「自分の行動は自身の意思で選択し行っていると感じたい」という「自律性の欲求」が満たされた結果です。指示ではなく、質問をすることで「自律性の欲求」が満たされるので、スタッフの行動が促進されていきます。

 質問をする際のポイントは、相手が答えやすい質問を作ることです。まずは、「1回につき質問の要素は1つが原則」と覚えておいてください。たとえば、「今日は何の映画を見て、その後にどの店に行って、何を食べたいですか?」と質問されるよりも、「今日は何の映画を見に行く?」「その後のランチはどこに行きたい?」「その店で何が食べたい?」と、3回に分けて質問をした方が答えやすいでしょう。