裁判官が定年間際に「思い切った判決」を出す呆れた理由写真はイメージです Photo:PIXTA

裁判官の多くは地味な判決に終始するが、著名事件でスター気分を味わいたい者も少なくない。だが事件は選べず、本庁配属や人事の壁が立ちはだかる。元裁判官の井上薫氏が、裁判官の欲望と制度の制約が司法の舞台裏を綴る。※本稿は、井上 薫『裁判官の正体 最高裁の圧力、人事、報酬、言えない本音』(中央公論新社)の一部を抜粋・編集したものです。

目立つ事件でスター気分に浸る
地味な日常と判決の高揚

 裁判官は比較的消極的な人が多いのですが、中には、目立つ仕事をしたいと願っている裁判官もいます。新聞に大きく出るような判決、たとえば憲法違反だとかというような判決は、裁判官にしてみるとちょっとしたスターになった感じですね。テレビのニュース番組で法廷場面が放映されますし、傍聴席から見ると真ん中に裁判長が座っていて判決を読み上げたりするとスター気分になります。一方、世の中そういう著名でない裁判もたくさんあります。数からいえば地味な裁判が仕事の大多数を占めます。著名事件以外はそんなスター的な要素はありません。そうなると、いつもは仕方がないけど、たまには自分も目立つ仕事をやりたいと思う裁判官もいます。

 徹夜までして一生懸命に書いた判決です。報道陣の前で朗々と読み上げて、テレビや新聞で大きく報道されることを想像すると、なんとも高揚するのでしょう。

 裁判官室を後にして、法廷に向かう際には、「ジャーン」という音楽まで頭の中で聞こえてくるかもしれません。しかし、扉を開けてみたら、新聞記者は皆無だった――などということもあり、「あれ」と拍子抜けする場合もありますが。