怒る男性写真はイメージです Photo:PIXTA

閉店間際の宝石売り場に乗り込んできた、ひとりのクレーマー。百貨店お客様相談室で経験を積んだ関根眞一氏でさえも、その男の眼光の鋭さに恐怖を覚えたという。そんな相手の威圧を笑顔に変えた苦情処理のプロの話術とは――。※本稿は、関根眞一『カスハラの正体〈完全版〉となりのクレーマー』(中公新書、中央公論新社)の一部を抜粋・編集したものです。

「俺の前でボロを出すよ」
開口一番そう言い放った男

 私が百貨店を退職する直前に出会った、思い出深いクレーマーのお話をします。その方との出会いは閉店した直後の21時5分。宝石売り場からお客様相談室に電話が入りました。「お客様が怒っている、責任者を呼べ」とのこと。事務所には私の他に事務員がいましたが、帰り支度の最中でした。対応できるのは私しかいないので1人で出向いたところ、そこに、濃紺のTシャツを着て、年齢の判断が付かない男が立っていました。

 体格が良く目つきは鋭く、腕っぷしも太く短髪、得体のしれない感じがありました。その男の発した最初の言葉は「あんたは、必ず俺の前でボロを出すよ」。そして、1メートルもない距離から睨まれました。私は恐怖を感じました。

 恐怖の理由は、年齢が想像出来ないことからだろうと思いました。話をしても、決して歳をとっているようには感じないが、隙がなく、落とし穴を用意されているように感じました。それに、怒っている理由を話してくれません。興奮して苦情を大声で言うのであれば、その対応は心得ているのですが。