しかも、2025年1月20日にスタートした第2次トランプ政権は半導体についても、関税などによって国内製造を促進するスタンスを打ち出した。国内ファブレスメーカーや巨大テックにとって、米国内の先端半導体製造能力は「ほしい」だけでなく「必要」なものになる公算がある。

 つまり、米国には半導体工場への需要がすでに存在しており、工場新設には最初から経済合理性がある。欧州もドイツ政府がTSMCのドイツ新工場に50億ユーロ(8160億円)を補助する。

 日本政府が熊本にTSMCを呼び込んだ構図に近いが、同工場はインフィニオン・テクノロジーズ、NXPセミコンダクターズ、ロバート・ボッシュという顧客企業との合弁で、それらの企業向けに車載半導体を製造する立て付けだ。ドイツ政府の支援は欧州半導体法に基づくが、同法はその他インテルやインフィニオンなど、自ら設計した半導体を自社工場で製造する一貫半導体メーカーの工場建設を支援する趣旨になっている。

台湾でファウンドリー企業が強いのは
対になるファブレス企業も優秀だから

 巨大ファウンドリーを計画する各国の戦略や思惑はそれぞれに異なる。しかし、明確な顧客や需要を自国内で確保せずに計画を進めているのは日本だけだ。それでいいのだろうか。

 TSMCを擁する台湾でファウンドリーという業態が発展した背景には、地元ファブレス半導体企業の存在がある。台湾の半導体産業は1980年代に聯華電子(UMC)やTSMCというファウンドリー企業の立ち上げと並行して、開発・設計に専念するファブレス企業を続々と生み出した。ファウンドリーとファブレスは、車の両輪としてお互いを必要としながら成長してきた経緯がある。

 現在、台湾には世界半導体売上高ランキングでトップ10の常連で台湾ファブレス最大手の聯発科技(メディアテック)や2番手の聯詠科技(ノバテック・マイクロエレクトロニクス)など、有力なファブレス半導体メーカーが幾つも存在する。台湾の調査会社トレンドフォースによると、2023年のファブレス半導体企業の売上高上位10社に、上記2社に瑞昱半導体(リアルテック・セミコンダクター)を加えた台湾3社がランク入りしている(注3)。台湾ファブレス企業の売上高合計は米国勢に次ぐ世界2位だ。ちなみに日本唯一といってよい先端ファブレス半導体企業であるソシオネクストはトップ10に入っていない。