偽装請負ショックや派遣切り――。これまでも日本では、新しい働き方に労働法制が追いつかず、社会的弱者を量産するという不幸が繰り返されてきた。近年、貧困転落の温床になるとして問題視されているのがスマートフォンで労働者と仕事をマッチングするビジネスである。特集『新・階級社会 上級国民と中流貧民』の#5では、ITツールの進化で生まれた新しいマッチングビジネスの「もうけのカラクリ」を解剖し、その問題点をつまびらかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
企業の雇用を抱えない経営は
非正規より弱い「最底辺の働き手」を生む
経済情勢が悪化するたびに、企業が人件費カットを目的に雇用調整に走るのは毎度のことである。かつて、派遣切りや偽装請負(実態は労働者派遣なのに請負を装うこと)が横行したときも、やはり経済がピンチだったときだ。決まってそのしわ寄せは、雇用の調整弁とされてきた非正規労働者へ向かうと相場が決まっていた。
実際に今回のコロナショックでも、雇用調整へ動いている企業は少なくない。だが、企業の行動には、これまでの人事施策とは異なる「ある傾向」が見てとれる。
新型コロナウイルスは、文字通り世界を一変させた。DX(デジタルトランスフォーメーション)や脱炭素シフトに代表されるように、全業種の企業に変化の大波が押し寄せている。変化を嫌う“社畜エリート”では有事を乗り切れないので、企業にとって、優秀な人材を獲得したりつなぎ留めたりすることが生命線になっている。
だからこそ、企業はハイスペック人材への投資は惜しまない。その一方で、キャリアの多様化を名目に、ロートルなど生産性の低い正社員の肩をたたく。そして、単純作業など労働集約的な業務については、外部人材に丸投げする傾向が強まった。
つまり同じ企業内で、ひと握りの「上級国民」がそれ以外の「中流貧民」、外部人材を支配下に置く構図が出来上がりつつある。日本社会は“分厚い中間層(中流)”が下流へ滑り落ちる「新・階級社会」への移行を急加速させているが、それと同じことが企業でも起きているのだ。
企業が「雇用を抱えない経営」へ突き進むことは、新たな不安定層を生む。非正規労働者よりもさらに立場が弱い「最底辺の働き手」である。
それが、“ギグワーカー”と呼ばれる人たちだ。インターネット上のプラットフォームサービスを介して、単発で仕事を請け負う働き手のことをいう。
経済が上昇気流に乗っていたら、“自由度の高い働き方”として脚光を浴びていたかもしれない。だが、ギグワークが広く浸透していた外食・小売りなどの業種にコロナが直撃したことで、社会問題化している。
ギグワーカーを抱えるプラットフォームサービスには、大きく二つのビジネスモデルがある。食事宅配サービス「ウーバーイーツ」のような個人事業主を組織化するモデルと、俗に“スキマバイト”と言われる「スポットマッチング」モデルだ。
二つのマッチングビジネスの「もうけのカラクリ」を解剖する。その巧妙な仕掛けには、貧困の温床となる危険が潜んでいる。