しかし、量子力学の知見では、実際に転送されるのは人間の情報で、転送元にある物質が消えるわけではありません。転送された瞬間に情報を失って、人間を作っていた物質はバラバラになり雲散霧消するか、抜け殻が残るのでしょう。そして意識を含めた情報が乗り移った「本人」が転送先に現れる、というわけです。
人間を含むマクロな物体の
テレポーテーションは実現できる?
現在の量子テレポーテーションの理解では、転送元と転送先に量子もつれにある量子を揃えておく必要があります。どんなマクロな物体も実際はミクロな量子の集合体ですが、量子の数が多くなればなるほど、それらのすべてに対して量子もつれ状態を作るのは至難の業です。
2004年にはベリリウム原子とカルシウム原子の量子テレポーテーションに成功したという報告があります。原子の構造は中心の原子核のまわりを何個かの電子が回っているという簡単なものですが、人間のような大きな物体の場合、ミクロに見れば想像を絶する数の量子(さまざまな原子)で構成されており、特に脳の働きなどは複雑な量子もつれをもって存在している(量子脳理論)と考えられています。
量子テレポーテーションをおこなうには、まず人間を作っている量子と同じ数の量子もつれ状態にある量子を、転送元と転送先に用意しておかなければなりません。

次に、先の事例でアリスがしたように、転送する量子と自分のもっている量子をもつれ状態にしなければなりません。光子などミクロの粒子を量子もつれにさせる技術はすでに完成していますが、人間のようなマクロな物体の場合、どうやっておこなえばよいのか、よくわかりません。
そもそも量子もつれ状態というのは非常に不安定で、外部のわずかな影響で壊れてしまいます。すると間違った情報が転送されてしまうでしょう。
その間違いを補正するためには、さらに多くの量子もつれ状態にある量子を転送元と転送先に用意しておく必要があります。考えれば考えるほど難しいことだらけです。
ということで、残念ながら、SFのようなテレポーテーションは不可能と思われます。