AARRRやPLGの知見を活用した
ユーザー体験を読み解く指標

 3つ目の視点は、既存のフレームワークや他社の成功事例をうまく活用することです。スタートアップやSaaS企業で広く使われている「AARRRモデル」や、近年注目を集めている「PLG(Product-Led Growth:プロダクト主導の成長)」の考え方は、KPIを価値の実現に結びつける上で大きなヒントを与えてくれます。

 AARRRモデルは、ユーザー体験を獲得から収益化まで5段階で捉えるフレームワークです。Acquisition(獲得)、Activation(活性化)、Retention(継続)、Referral(紹介)、Revenue(収益)の頭文字から取ったこのモデルの各ステップごとにKPIを設定することで、課題のある段階を特定しやすくなります。

 また、PLGの考え方では、プロダクトそのものが顧客獲得やアップセルを推進する役割を担います。この場合、プロダクト体験の中に組み込まれた「自然な流入」や「自己発見による導入拡大」を計測する指標が求められます。

 たとえばビジネスチャットツールで「チーム内でのメッセージ送信数」がNSMとして使われ、それを構成するKPIとして「週次アクティブチーム数」や「初回セッションあたりのメッセージ数」などを設定しているケース。これらは単なる使用状況の把握にとどまらず、「利用の広がり」や「継続利用への期待度」といった価値指標と密接につながっています。

 AARRRやPLGのようなフレームワークを活用すれば、KPIは単なる数字の一覧ではなく、ユーザーが価値を感じた瞬間を捉え、ユーザー体験を読み解くための設計図として機能します。NSMという大きな目標を、ユーザーの行動ステップや体験設計に分解し、それぞれに合った指標を配置することで、KPIは現場の意思決定を支える実用的なツールになります。

経営層から中堅層、現場まで
組織階層に応じたKPIの設計・運用術

 KPIをどれだけ精緻に設計しても、「現場でどう使われるか」が伴っていなければ意味がありません。KPIは、運用の道具として機能して初めて価値を持ちます。

 日本企業においては特に、KPIを管理のための道具として捉えてしまいがちです。しかし本来、KPIは「事業やプロダクトの方向性と優先順位を明確にし、チームの思考と行動を支援するための数値」であるべきです。