KPIは、「誰の目に触れるのか」によっても、その意味と効果が大きく変わります。経営層、部門責任者、現場メンバー、それぞれの立場で、KPIに求める役割も粒度も異なります。

 経営層が見るべきKPIは、戦略レベルの進捗やビジネス全体の健全性を表すものであるべきです。NSMのような北極星指標や、解約率、LTV(顧客生涯価値)、市場シェアなどがここに該当します。

 部門レベルでは「オンボーディング完了率」や「MQL数(マーケティング適格リード数)」などの戦略と実行をつなぐ中間指標が重要です。現場メンバーには「チャット返信の初回レスポンスタイム」や「バグ報告から修正完了までの日数」など、具体的な行動と直結したKPIが求められます。

 これらのKPIは、日々の行動改善やチーム内の振り返りに活用されることで、直接的な価値創出を支える道具になります。

定量データと定性データの使い分けで
現場に手触り感のあるKPIを

 KPIの運用で見落とされがちな視点のひとつが「時間軸」です。多くの企業で注目されやすい売上や利益、解約率といった指標は「遅行指標」と呼ばれ、過去の活動の結果として現れるものです。

 一方、行動の兆しを捉える「先行指標」は、データドリブンなプロダクト運営において、ますます重要性が高まっています。例えば、SaaSサービスで解約率が上がったことに気づくのは、既に多くのユーザーが離脱した後です。そこで「ログイン頻度の低下」や「利用機能数の減少」といった、前兆を捉える指標が重要になるのです。

 これらの先行指標は、改善アクションを迅速に打つためのセンサーのような役割を果たします。ユーザーが使わなくなる前に気づけるかどうかによって、プロダクト改善のスピードと精度は大きく変わります。さらに、先行指標は施策の仮説検証にも活用でき、アジリティを持ったプロダクト運営を実現する鍵となります。

 もちろん遅行指標にも、実際のビジネスインパクトを定量的に評価する役割があります。KPI設計では、遅行指標と先行指標を組み合わせて使い、全体の流れを見える化することが求められます。