価値を行動に変える中間指標としての
KPI設計の考え方

「価値を届けよう」と言っても、それが具体的にどのような行動を意味するのかが曖昧なままでは、現場の動きは鈍ります。特に、NSMが掲げられた直後のチームでは、「その数値をどうやって動かすのか」「日々の業務とどうつながるのか」が見えずに、思考や施策が止まってしまうことがよくあります。

 ここで重要になるのが、NSMと現場の行動をつなぐ中間指標、すなわちKPIです。KPIは、価値に向かう一歩一歩を可視化する「行動のガイドライン」として機能します。「このKPIを改善すると、結果としてNSMが伸びる」という因果のつながりを理解できれば、チームは「どのような施策を打てばよいか」「何を優先すべきか」を自律的に判断できるようになります。

 私が愛好する登山に例えると、NSMは進むべき方向を示すコンパス、KPIは標高や緯度・経度、あるいは現在地を示すマップのような存在です。私たちはKPIを通じて、正しいルートをたどれているか、足りない行動は何かを判断することができるのです。

 KPIは単に数値であるだけでなく、「手触り感のある指標」であることが望ましいです。例えば「ある期間のアクティブユーザー数の推移」や「1週間あたりの平均利用時間」といった指標は、事業の日々の変化や成長を映し出します。これらの数字が右肩上がりで推移していれば、「ユーザーがより深く使ってくれている」「プロダクトが日常の仕事の中に入り込んでいる」といった実感が持てますし、停滞や下降も即座に把握できます。

 こうした指標があれば、チームは指標に納得し、主体的に動けるようになります。KPIが現場の人々にとって「意味がある」「動かせる」と感じられるものであればあるほど、それは単なる管理指標ではなく、「価値を実現するための行動のきっかけ」になります。

 価値とは抽象的な概念ですが、それを実現するには具体的な行動に落とし込む必要があります。その橋渡しとなるのがKPIです。