NSMからの“分解”と“接続”
KPIツリーの構造と設計の原理

 ここからは、KPIの構造と設計原則について、3つの視点から考察していきます。まずは「KPIツリー」の構造と限界についてです。

 多くの企業では「売上」や「成約率」といった最終成果指標を頂点とし、そこからKPIを因数分解していくアプローチを採用しています。しかしこの方法では、プロダクトがユーザーにどのような価値を届けているかという視点が抜け落ちがちです。また「数字が上がるもの」を指標にしてしまう限界もあります。

 この限界を乗り越えるために有効なのが、ユーザーにプロダクトが提供する真の価値の核心を定義するただ1つの指標、NSMを起点としたKPIツリーの設計です。NSMを最上位に据え、そこから「価値」の構造としてKPIを展開していけば、売り上げの積み上げではなく、価値の積み上げとしての行動が見えてきます。

 たとえば、音楽配信サービスで「月間楽曲視聴時間」をNSMに据え、それを支えるKPIとして「週セッション数」や「プレイリスト再生までの時間」などの指標を設定している例があります。こうすれば「楽曲を長く楽しんでもらう」という価値を、ユーザーの行動レベルまで具体化し、組織全体に展開することが可能になります。

 2つ目の視点は「因果関係に基づく設計」です。

 KPIを設計する際、「指標が本当に意味のある行動につながるか」という因果の視点は見落とされがちです。見た目の相関に基づいてKPIが設定され、「肝心のNSMは変わらなかった」という事態は数多く起きています。

 ここでは相関関係と因果関係の違いを理解し、NSMが変化する指標の仮説を立て、定量的な検証やユーザー行動の観察を通じて確かめることが重要です。

 たとえばECサイトで「購入者はレビューを読む傾向がある」という相関があったとしても、「レビュー閲覧数を増やせば購入率も上がる」ということには必ずしもなりません。「もともと購入意欲の高い人ほどレビューを確認する傾向が高い」だけの可能性もあります。

 KPIを設計する際には、行動の原動力がどこにあるか見極める必要があります。ユーザーがプロダクトを継続利用したくなる瞬間はどこにあるのかを定義し、そこに至るまでの導線をKPIとして設計していくことが重要です。