
製造業DXの分野で、日立製作所と独シーメンスの両雄の存在感が増している。日立は現場に寄り添う“ボトムアップ型”でLumada(ルマーダ)を展開し、実装と改善の伴走力で国内市場を席巻。シーメンスは“トップダウン型”で業界標準の枠組みを主導し、グローバルにIoTプラットフォームや工場のOSを拡張する。特集『製造業DX 破壊と創造 9兆円市場の行方』の#2では、個別最適と全体最適で分かれる思想を深堀りするとともに、製造業デジタル化ツールの最新の勢力図も公開する。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)
製造業DX3兆円市場の争奪戦!最新勢力図を公開
Lumadaの躍進――“80・20”宣言のインパクト
日立製作所のLumada(ルマーダ)が製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の現場で気を吐いている。2024年度、Lumada事業の売上高は3兆円を超え、前年比3割増という成長を遂げた。同社の売上高全体の3割を占めており、名実ともにDXの中核事業に成長した。
この躍進を支えるのは、単なるITツールの提供ではなく、「現場の運用知」と密着したコンサルティング型のアプローチだ。徳永俊昭社長は4月に発表した中期経営計画で「長期的にはLumadaで売上高構成比80%、利益率(調整後EBITDA率)20%を目指す」と“80・20”宣言を行い、注目された。
日立は、製造ラインや設備の稼働データだけでなく、作業員の動作や設備点検の手順、ベテランの判断ノウハウまでを可視化・データ化し、改善提案へと結び付けている。FA(ファクトリーオートメーション)領域のみならず、エネルギーや物流など広い分野に展開が進む。
個社ごとの課題に合わせた設計と運用改善を一つ一つ積み上げていくのが日立流だ。ダイキン工業では生成AIを活用して工場設備の故障を診断するエージェントの試験運用を始めた。制御・運用技術の知識と保全記録を学習したAIが、90%超の精度で故障原因と対策を提示し、現場判断を支援している。
こうした各現場に“オーダーメード”で向き合う姿勢には日立の思想が反映されている。「現場に根差した運用知こそが競争力の源泉である」という、いわば“ボトムアップ型DX”の哲学だ。個別課題に寄り添い、改善を積み上げていくスタイルは、日本的な製造業の強みと親和性が高い。
国内の製造業DX市場は今、急速な拡大局面にある。富士キメラ総研の試算によれば、国内のDX市場全体は30年度に9兆円を超えるという。中でも製造業向け市場は、30年度には3兆円に迫るとされ、23年度の2.4倍に膨らむ見通しだ。
巨大市場を巡って国内各社がしのぎを削る。富士通はCOLMINA(コルミナ)を中心に、製造現場の見える化・予知保全・品質改善といった機能を提供してきた。21年には新たに脱炭素データ基盤Uvance(ユーバンス)を発表し、製品の二酸化炭素排出量の追跡や取引先への情報開示にも踏み込んでいる。
NECもまたNEC Industrial IoTで、通信技術・画像認識・セキュリティーに強みを持つ。安川電機のi3-Mechatronics(アイキューブメカトロニクス)、オムロンのi-BELT、ファナックのFIELD systemなど、製造機器メーカーも独自のIoT基盤を展開している。
次ページでは、グローバルで存在感を示す独シーメンスなど欧米企業の高シェアの秘密と、ダイヤモンド編集部が作成した最新の製造業DXプラットフォームの勢力図を公開する。